Aクラス入り
学外実習の影響でクラスメイトが減った。
AからDクラスすべてで、同じ教室にいられないと判断した人、された人がいたようだ。
「ということで、ルキノくんAクラスね」
職員室でにこやかにエミール先生はなにを言っているんだろう。
「クラス調整があるから、新入生は授業一般教養ばかりだったのよ。魔術の授業やるとクラスごとの進み方に差が大きいから」
僕、何も聞こえない。
「では、あとはラムセイル先生お願いしますね」
「その、なんだ。幼なじみと同じクラスに慣れてよかったな」
「僕は幼なじみと違うクラスがいいです」
ラムセイル先生が視線をそらす。
「主のためなら命がけで暴走を止める子はいるが、余裕でやったのはサムイルくんとルキノくんだけだ。今後も鎮圧要員として期待している」
そんな期待いらない。
「それ、先生の仕事ですよね?」
「先生は頭でっかちな学術魔術師だ。必要な魔石は提供する。アルバイト代も出るよ」
「時給プラス歩合なら考えてもいいです」
歩合のみならやらない。
誰も暴走しなきゃ神経使うだけで実入りがないし、対象者が多くて面倒だ。
それに、たぶんサムイルは無料でもやるから僕に出番はない。時給じゃないと、アルバイトになりません。
「後ですね、僕は週一回くらい技校に昼間行きたいです」
馴染みのない技能は補講だけでは厳しい。いっぱい授業受けても、少しでも授業料は同じ。それなら得られる技能は多い方がいい。なので、いろいろ試してみるつもりだ。
その分野の第一線で働いている人を講師として呼ぶ特別授業も業種問わず参加したい。
「事前に分かっているなら欠席届け出して、技校で出席証明書を書いてもらえば、いろいろ考慮される。併用入学特例措置があるんだが、先生の中でも知らない人が多い。困ったことがあれば相談にこいよ。どっちの学校でも提出期限延長措置なんてのもあるからな」
ラムセイル先生は、たった一人の併用入学者のためにマニュアルを三冊読んだそうだ。僕が手続きしないと勉強がムダになるそうで、やたら特例手続きの申請を勧めてきた。
とりあえず、欠席届けを提出することからやってみよう。
Aクラスの教室へ行くと空席が三つあった。いなくなったのが三人で、補充は僕だけらしい。なんか、僕一人調子に乗ってAクラスにきたみたいで嫌だ。
新しいクラスメイトは合同授業で顔合わせしているから知らない顔はない。一部あやしい人もいるけど、名前もわかっている。
サムイルがいるからあんまり心配してないけど、クラス全体としては歓迎ムードじゃない。
「ルキノ・マイハースです」
よろしくしてくれなくていいから、くれぐれもBクラスにいる取り巻きに告げ口はやめてくれ。合同授業があるから、元クラスメイトとの縁も切れない。
本当、いいとこなしのクラス変更だ。
それにしても、クラス変更による学生証の変更は面倒だ。新しいものには魔力の登録がいる。放課後手続きに来るようにいわれているが、技術学校へ行く準備をしたい。休みの日も技術学校へ行くし、手続きのためだけに魔術学院へ行きたくない。
もうシルバーのままでいい。ゴールドでないと利用できない図書なんて今のところ読む予定ないし、食堂のゴールド専用席なんて利用しない。
放置してたら、ホームルームの授業中にやってくれることになった。できるなら最初から授業中にやってほしい。
「クラスアップしたら、誰でも喜んで初日に手続きに来るものなんです」
事務手続きの係りの人に怒られたけど、僕は嬉しくないし、ゴールドもシルバーも価値が見いだせなかった。名誉みたいだけど、名誉じゃ腹はふくれない。買い物で割引きしてくれるならありがたみもあるんだけど、そういう恩恵は残念ながらなかった。
ホームルームでお話はいくつかあり、重々しくラムセイル先生が告げる。
「さて、今月末は全学院合同演習があります」
さも重大そうに告げたのに、月末の授業の説明で拍子抜けする。
長期休暇中をのぞき、月末に全学年か各学年で行われる演習で、新入生は初月だけ、参加か観戦を選べる。来月からは全員強制参加となり、今回だけが観戦を選べる唯一の機会だ。
「二人以上のチームで各チームの戦力は均一になるようわけられます。一年生だけのチームはまずありません。成績上位のチームには賞品があります」
チーム運が良ければ賞品がもらえるおいしい話しに聞こえる。だが、やめとけと脳裏で警鐘がなっていた。
「チームの得点は、生存時間と撃破数の合計です」
生存時間は最初の脱落者を出した時間ではなく、最後の脱落者を出した時間。撃破数は脱落者を出した数。
ようはチームで行うサバイバル戦だ。チームの得点が最後の一人ということは足手まといな下級生は開始早々に見捨てられる可能性が高い。
先生はつらつらと説明をしたあと、さわやかに問う。
「今回の演習が来月の演習にきっと役立つでしょう。参加したい人は手を上げて下さい」
半分ほどのクラスメイトが手を上げた。
僕のなかじゃ参加はありえないんだけど、不参加者が少数派になっている。でも、僕は自分のカンを信じて手は上げない。
先生は手を上げた人を名前を呼びながらメモっていく。手を上げてないのはクラークの主に、異母姉妹の姉といった貴族の女の子。それから、育ちの良さそうな年下の坊ちゃんにアルシェイドと僕。
「アルシェイドくん、君は参加しないのか? チームは上級生と一緒だからね。いろいろと有益な話が聞けるぞ」
「見る機会は今回だけでしょう?」
「脱落者になると終了時間まで観戦だ。見る機会はこれから先いくらでもある。どうだ? 参加しよう」
熱意ある先生の説得にアルシェイドは参加に同意した。
先生の次の標的は僕らしい。
「ルキノくん」
「不参加です。参加しません」
意思表示ははっきりとしておく。
先生は困ったようにため息をついた。
「君は月半ばでのクラス変更で大変だったよな。学院にもまだなじめていかないだろ? きっと先人である先輩との交流はルキノくんの助けになるだろう」
そんな言葉にまどわされはしない。
「先生、Aクラスから何人出すのがノルマですか?」
「Bクラスで苦労して、毒されたんだな」
否定してないですね。
「不参加の女子生徒に声をかけない理由は何でしょう?」
「ルキノくん、とりあえず参加しよう。賞品はいいぞ」
「上位入賞できるなんて自惚れはありません」
「脱落しないで終わると生存者賞があってな、これは逃げまわるだけで食堂で使える金券がもらえる」
それ、逃げまわるのも難しいから賞品がでるんじゃないのかな。
「賞品より魔術の補助に使う魔石の方が高いです」
「わかった。開始直後にリタイアしてもいいから、とりあえず参加しよう。な?」
先生、今までの話はなんだったんでしょうか。もう、説得じゃなくて、強制ですよね。
どうやら僕に選択肢なんてなかったらしい。