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幼なじみはドラゴンスレイヤー

森を貫く街道。

景色は長閑で、荷車はのんびりと進む。

危険なんてどこにも見あたらない。なのに頭の中は警戒警報が鳴り響いている。


「道、変えましょう。この先よくないきがします」


鳥タイプの騎獣ランドバードの上から荷車を操る師匠にうったえる。荷台にいる戦闘好きと素材好きの師匠たちよりはマシな人。たぶん、師匠たちの中で唯一危険回避って概念がある。


「最近、この街道の往来が減っているそうだ。ルキノが騒ぐなら何かいるんだろうよ」

「なら引き返しましょう」

「引き返したら移動距離が増える分カネがかかる。ここで何が起きているかギルドに知らせればカネがもらえる」


うん。この師匠守銭奴だった。

よりカネがかかるって方向性の危険なら回避してくれるのだが、安全性については考慮が低い。

荷車の反対側でランドバードに乗っている幼なじみは強い敵にあえて突っ込んでいくノーキン。命だいじにいきたい僕の仲間はここにはいなかった。


何度目かのため息をついたあと、荷車が止まる。師匠たちだけで話て、荷台と騎獣の交代を命じられた。

ランドバードに乗った師匠たちが荷車の誘導していく。


「何かあったのか?」


のん気な幼なじみを冷たい目で見てしまう。こっちは街道をそれたあたりから手の震えが止まらない。確実にこの先に何かがいる。


「何かはこれから起きるんだよ。戦闘準備しておけよ」


この先にいるのは僕にどうにかできる感覚じゃない。だからこそ幼なじみにはがんばってもらわないと、僕の生存率に影響がでる。


荷車が止まると僕らは静に降りた。ここからは歩いて進むらしい。幼なじみは一番前にいる師匠と並び、僕は最後尾にいる師匠と並ぶ。


周囲を警戒しながら進んだ先に巨体が見えた。


ドラゴン。

それは生きた天災だ。

凡人がどうこうできるものじゃない。

なので、凡人の僕は当然逃げたい。遭遇して生き残っただけで、強運と誇れるレベルだ。

戦うなんて選択はありえない。

それでも、世の中にはドラゴン相手に好んで戦うを選択する強者がいる。

そして、僕の幼なじみサムイル・ベルテアはそう呼ばれるがわにいる。


成体というには小さく、幼体とみるにはかなりデカい。そんなドラゴンにテンションを上げる幼なじみ。


「ドラゴンの肉ってマジでうまいんだよな?」


なんで、目が輝いているんだよ。僕は食欲だして喰われたくない。

止めろ、と期待して師匠たちをみればやる気だった。期待するだけムダだってわかってはいた。でも、足は震え、気持ち悪い。


「めちゃくちゃうまいよ」

「素材としてもおいしいぞ」

「これは報奨金がでるな」


まっとうにドラゴンに恐怖しているだけのに、仲間がいない。ドラゴンを前に捕食者の目になるのが正しいのか?

多数決で負けてると不安になる。


「ルキノは死なないようにやれよ」


気にはかけてくれたが、ドラゴンには向き合わされる。

ドラゴンとしては小さくても、翼をいれれば平家並の巨体だ。振り回される尻尾に当たっただけで致命傷。体を覆う鱗は硬く、僕の剣じゃダメージは与えられない。

腰のベルトにつるしたいくつもの革袋。そのうちの一つに左手をつっこみ小さな魔石をわしずかみにする。

魔物討伐初心者でも手に入れられるが、売っても安いクズ石といわれるもの。一個じゃどうにもならないが、数があればやれることもある。


戦闘から離れ、僕は一人ちまちまと魔石に魔力をこめていく。やる気いっぱいで一撃で片翼を斬り落としたサムイルと同じことなんてやれない。

ドラゴン威圧を正面からうけて笑うとかさ、もう人間の枠内にいないだろ。師匠たちもサポートにまわってサムイル任せるぽい。


腕斬り、足斬り、尻尾斬り。


なんか、幼なじみがドラゴンを虐めているように見える。


最後のあがきにドラゴンがブレスを吐き出す。僕はそれに合わせて魔石を投げた。三角錐の防壁が八枚重ねでサムイルの前にできる。


師匠たちはブレスの射程範囲外にいて、僕はサムイル背後でやり過ごす。ブレスがとぎれたとこで、サムイルが残っていた二枚の防壁を一閃して飛び出ると、ドラゴンの頭を落とす。


幼なじみは12歳にしてドラゴンスレイヤーになった。


栄誉を手に英雄の仲間入り。師匠を得たのは幼なじみのオマケだったが、そろそろ縁を切るべきではないだろうか。

僕は英雄になれる側にいない。天才のそばにいたって足をひっぱるだけだ。


それに、強い敵を求めるサムイルと一緒にいると、僕だけが巻き添えで死にそう。ここは相手のために見せかけて、安全のために離れさせてもらおう。

密かな決意を僕は胸にしまった。




確かにドラゴンはおいしかった。

五人で焼肉しても余るくらいで、保存用に干し肉にし、燻製にしても売るほど残っている。

荷車の荷物をランドバードに移しても、荷車いっぱいによい素材が手に入った。素材剥ぎ取り時間がかかり、移動も徒歩になったが、食事はドラゴンの肉で疲労が残らない。

町に着くのが遅れてもいいと思えるだけ、ドラゴンの肉は肉汁が口いっぱいに広がっておいしかった。


そして、ドラゴンの換金が怖いくらいにいい。

売るはドラゴンの頭部と魔石に、あまり気味の肉と骨の一部。頭部からは牙だけ抜きとっている。ドラゴンは頭部と魔石を国に売らないといけない決まりがあるそうで、目玉の欠損なら細かく理由を聞かれるけど牙くらいなら追求されないそうだ。


さらに、ドラゴンの出現なんて街道封鎖レベル。

その報奨金となれば金貨が積み上げられる。


一番近くの町では手続きをしただけで、お金については実感がうすかった。数字が右から左に動くだけだし、町の偉い人とか騎士の偉い人が出てきてそれどころじゃなかったっていうのもある。

対応するのは師匠たちだし、興味の中心は幼なじみ。僕は祝賀会の空気に圧倒され、一歩引いたところで傍観していた。


「ルキノ、お前もドラゴンスレイヤーになりたいか?」


酔った赤い顔で、喧騒から離れ師匠が一人やってくる。

僕は首を横に振った。そんなものになれるとは思えない。


「クルト師、僕はあなたがなると思ってました」


戦闘好きで、剣を使うこの師匠にサムイルの戦い方は一番似ている。生まれもった魔力量はサムイルの方が多いが、技量にはまだまだ大きな差があった。


「春には学院に行くからな。箔付けしてやりたかったんだよ。サムはあの魔力量だ。入学したらAクラス確実。貴族連中ばっかのクラスだから、ただの子どもじゃダメだ」

「だから譲ったんですか?」

「英雄にはあいつみたいなのが似合うからな」


苦く笑い、師匠は遠くにあるものを見るような視線をサムイルにむけていた。

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