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第6部 第3話【感ずれ人間、絶滅すべし】

 深夜の1時頃、私はクマハラさんとふたりで近所のカラオケ屋に行った。そして約2時間、私たちは交互に歌をうたい続けた。


 


 

 ……カラオケ終了後、私は心の中で含み笑いをしていた。きっとクマハラさんは私のご機嫌取り目的でカラオケに誘ったのだろうが、それがまさか自分の人生の変革のきっかけになってしまうとは夢にも思っていなかったにちがいない。


 


 

 これまでに何度か書いてきたが、私は生まれつき非凡な歌の才能があり、様々なところで歌を披露しては絶賛を浴びてきた。


 


 

 1回目━━土木会社入社前の宴会場でのカラオケ。


 


 

 2回目━━第3部にはまったく書かなかったが、実は建設会社時代にアケダさんらと行ったカラオケ。


 


 

 3回目━━先日、両親と行ったカラオケ。父はカラオケ屋においても酒に酔っていたが、私の歌に感動を爆発させていた。


 


 

 4回目━━これはあえて書かないでおこうと思う。しかし、思い当たるふしがある人は、この地球上に20人ほどいると思われる。


 


 

 それ以外にも私はうたいながら自転車で散歩をするのだが、私の歌声を耳にしたと思われる通りすがりの女性たちに頻繁に振り返られたりしていた。


 


 

 ……私はこの日、創価学会員のクマハラさんに自分の奇跡の歌声を2時間にわたって聴かせた。これで創価学会一辺倒のクマハラさんの中にも、きっとなんらかの変化が生じることだろう━━私がそのようなことを思った次の瞬間だった。クマハラさんがこういったのだ。


 


 

 「それでさ、仕事見つけたほうがいいよ。ね?バイバーイ」


 


 

 そういってクマハラさんは両手を大きく振りながら夜の闇の中に消えていった。


 


 

 私はしばらく呆然となってその場に立ちつくしていた。私はたしかに2時間にもわたって奇跡の歌声を聴かせたはずだ。そのためてっきりクマハラさんは感動に胸をうたれ、私に対して一目置くようになるものと確信していたのである。それだというのにクマハラさんは私の歌に感動した様子は微塵もなく、『バイバーイ』といってさっさと帰ってしまったのである……。


 


 

 実はこれと酷似した出来事に1度だけ遭遇したことがある。先ほど両親とカラオケに行ったと書いたが、私の歌に感動したのは父だけで、母のほうは私の歌に対して無反応だったのである。


 


 

 父はカラオケの翌日も感動をくり返していたのだが、母はというと『え?なにかあったの?』という感じで、感動爆発の父の様子を不思議がっていた。


 


 

 クマハラさんと母━━どうやら世の中には、まれにこういうたぐいの人がいるようである。万人が感動に胸をうたれる芸術を目の前にしても、なんの感情も胸に湧かない人間……。


 


 

 私はこうした人たちを感覚のずれた人間、略して【感ずれ人間】と呼んでいるのだが、人類の芸術力向上のためにも感ずれ人間は絶滅しなくはならない。


 


 

 それに感ずれ人間の本人たちもたいへん哀れである。すぐれた芸術を微塵も堪能できない人生などもはや地獄だ。


 


 

 私は自分がこれから起こす世界革命を【ワールド・ルネッサンス】と呼んでいるのだが、ワールド・ルネッサンス後の世界では小学校を終えるまでに感ずれ人間かいなかをひとりひとりチェックし、中学以降から正常な感覚を持てるように教育する必要があるだろう。


 


 

 暗闇の中に消えていくクマハラさん。先日のキウチさんたちとの出会いによってせっかく創価学会に親しみを持ちはじめていたというのに、この日のクマハラさんとのカラオケによって完全に白けてしまった。

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