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第5部 第4話【“孤独”なワケ】

 中学時代、イウチという女子生徒が私のことを頻繁にあざけていたと書いたが、イウチの特に記憶に残るあざけりに『孤独だよ』というものがあった。


 


 

 給食の時間のことである。どこからか女子の声で『孤独だよ、孤独だよ』というあざけりが聞こえてきたのだ。どうやら私のことをいっているらしいことに気づいたのだが、当時の私は『孤独だよ』という言葉の意味がよくわからず、『自分はそのくらい暗い雰囲気をかもし出してしまっているんだな……』と解釈することにしていた。


 


 

 また、ある日の授業中のことだ。とある男の先生が笑い話をしており、教室が笑いの渦に包まれていた。私は別におもしろくはなかったのだが、周りに合わせようと少しニヤッとしてみた。その瞬間、どこからか『こわい!』というあざけりとともに顔を机にパタンとつっぷす音が聞こえた。きっと私のぎこちない作り笑顔をバカにしたのだろう。そしてその声の感じからイウチだったと思われる。


 


 

 が、だ。そのときの私の席は1番右隅で、イウチの席は1番左隅。そんな遠く離れたところから、なぜイウチは私の姿をずっとチェックし続けていたのだろうか……?


 


 

 【姿と存在自体をバカにされる】といえば、なんといっても建設会社時代。私は立って作業しようと座って作業しようとどこでなにをやろうと、親方とミスターXのふたりに強烈な怨念を込めた目で睨まれ続けた。


 


 

 毎日真面目に作業に取り組んでいたというのに、なぜ自分が睨まれなければならないのか?当時は本当になにもかもがさっぱりだった。


 


 

 しかし、この謎を解明するヒントになる出来事が、過去の記憶の中にひとつだけあったのである……!


 


 

 それは母とともに行った長野県の高校受験。その面接のときのことである。私がパイプ椅子に腰をかけると、面接官の女性教師が不思議そうな口調でこういったのだ。


 


 

 「……あの……落ち着いてるね」 


 


 

 私は最初、なんのことかさっぱりわからなかった。『は?』という感じだ。『落ち着いてるね』といわれても、私は椅子に座っているだけだ。それからも面接官の女性教師は『落ち着いてるね』を2回ほどくり返した……。


 


 

 当時は結局その言葉の意味を理解することはできなかったのだが、客観的な視点を獲得できた1996年以降から少しずつ真相が見えるようになってきた。


 


 

 私は小学生の頃、ストーンズとプリンスの東京ドームコンサートビデオを、中学生になるまでの間にそれぞれ数百回は見た。


 


 

 また、その壮絶な感受性からテレビの深夜番組も膨大に見た。


 


 

 また、この頃、『そういえば小学生のとき、テレビの映画番組を欠かさずに観ていたなぁ』ということを思い出していた。


 


 

 私は第1部にも書いたように小学生時代、テレビの映画番組をひとつも欠かさずすべて観つくした。小学3年頃から卒業までずっと観続けたので、私は小学生時代に映画を1000本は観たと思う。


 


 

 ストーンズとプリンスのビデオ数百回ずつ、膨大な深夜番組、そして膨大な映画━━それらをくる日もくる日も延々と延々と見続ける生活をおくっているうちに、どうやら私の総身は異様な【落ち着きのムード】に包まれてしまったらしいのだ……。


 


 

 これは自分で見た場合、普通の鏡などではわからないのだが、コンクリートの地面に映った自分の影や、窓ガラスに映った姿をじっと凝視していると、まるで石像を目の前にしているかのような、私のいるところだけ時間が止まっているかのような、得体の知れない奇異な感覚に襲われるのだ。


 


 

 自分で自分の姿を見ても得体の知れない感覚に襲われるのだから、人から見れば相当奇妙で奇怪な存在なことなのだろう。これが『孤独だよ』とあざけられ、建設会社で親方とミスターXに睨まれ続けた理由だったのである。


 


 

 そういえばある日、本屋で音楽雑誌を立ち読みしていたとき、アキと名乗るヒッピーっぽい風貌のロックおじさんにこういわれたことがある。


 


 

 「……わかるんだよ。そいつの姿を見りゃーよ。こいつ、やりそーだな!ってな」


 


 

 おそらく私の【落ち着きムード】を、天性のカリスマ性かなにかと誤解してしまったのだろう。このときのアキと名乗ったロックおじさんは、今頃どこでなにをしているのだろうか?


 


 


 余談だが、【落ち着きムード】の発見のすべてのきっかけを与えてくれた面接官の女性教師。彼女は『……落ち着いてるね』のあとにこうもいっていた。


 


 


 「ほら!こっち、田舎の子たちだから!」


 


 


 限りなく落ち着いたムードを発する最高にカッコイイ男のこの私をバカにし続けていた中学時代のブタとサルたち。【田舎の子たち】とはまさに彼らに当てはまる言葉といえよう。このときの面接官の女性教師には感謝の言葉もない。

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