第1部 第3話【火の鳥】前編
1989年頃のことだったと思う。
日本テレビで毎週金曜の夜9時から放送される金曜ロードショー。それに洋画ではなく、日本のアニメ映画が放送されることになったのだ。タイトルを【火の鳥】という。
そう。日本が世界に誇る漫画の神様・手塚治虫のライフワークといわれた作品だ。今思うとちょうどその頃、手塚治虫が他界し、それを記念しての放送だったような気がする。
第1部の鳳凰編を見終えた私は、第2部の大和編も見ようとテレビ画面に釘付けになった。が━━
……気がつくと、私はテレビがある6畳間ではなく、自分の部屋の3畳間で横になっていた。どうやら大和編の途中で眠ってしまったらしい。
時計を見ると11時30分。急いでテレビをつけたが、11時までの放送の金曜ロードショーはやはりすでに終わっていた。
なんということか。せっかく【火の鳥】が放送されたというのに、おろかにも第2部の大和編の途中で眠って最後まで見れなかったとは……。
呆然自失の私は夜中まで内職を続ける母に訊いた。
「途中で眠っちゃったってことは、【火の鳥】がおもしろくなかったってことなのかなぁ?」
すると母は『そうなんじゃないの』とだけ答えた。
それから3畳に戻った私は、大和編を見逃した悔しさに大粒の涙を流しながら眠りについた。