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第3部 第7話【漆黒の痛み】

 【ナイトヘッド】という大傑作文学との出会いによって、小卒同然の身ながら私にもそれなりの文章力がつき出していった。いよいよ本格的に執筆に取り組もうという状態だったのだが、この頃、ついに、最も恐れていた事態が訪れてしまった。


 


 

 ミスターXから浴びせられた悪魔の言葉。それによる苦しみが本格化したのである。


 


 

 それまではうっすらと左胸を灰色の霧が覆う感じだったのだが、この頃から漆黒の闇が左胸を完全に支配し出し、苦しみの度合いの表現も強烈な苦悩、痛烈な不安などから“壮絶な絶望”に変わっていった。


 


 

 ミスターXの悪魔の言葉が頭に蘇るたびに、左胸をすさまじい塗炭の苦しみが襲うのだ。それはもうたとえようがないむごさだった。


 


 

 ミスターXの悪魔の言葉が頭に蘇る━━そのたびに全身を雷に打たれ、体中を無数のナイフが走り渡るかのような絶望に襲われた。


 


 

 よくサスペンス系の映画などで、【数秒間、地獄を見ただけで死ぬる毒薬】みたいなものが出てくるが、私がこのとき味わっていた壮絶な絶望は、その【地獄の数秒間】が絶え間なく延々と続いているようなものだったといえる。


 


 

 さらにである。不登校の頃は記憶の底に閉じ込められていた中学時代の罵倒と嘲笑の記憶も蘇り、私はミスターXの悪魔の言葉と中学時代のあざけりの記憶というふたつの強大な敵と死闘を演じることになっていった。


 


 

 ━━朝、目が覚める。私が1番最初にするのはため息をつくことだった。それから数秒後、私の頭にミスターXの悪魔の言葉が容赦なく蘇る。次の瞬間だった。私の左胸に究極の苦しみが走り渡るのだ。


 


 

 それにしても、苦しかった。朝も苦しく、昼も苦しく、夜も苦しい。夢の中では中学時代の嘲笑的なクラスメートたちがあらわれて私を嘲笑った。今思うと、よく発狂せずにいられたものだと感心してしまう。


 


 

 しかし、なぜにミスターXの悪魔の言葉に、当時の私はそれほどまでに苦しんだのか?以前書いたようにミスターXの悪魔の言葉とは、日常の中で頻繁に耳にする普通の言葉なのである。しかし、それでもミスターXにいわれることで、私は塗炭の苦しみを味わうことになってしまうのだ。


 


 

 【人間アレルギー】というものが医学的に存在するかどうかは知らないが、もう人間アレルギーだったからとしかいいようがない。ミスターXは私にとって最悪のジョーカーであり、ぜったいに出会ってはいけないたぐいの人間だったのである。


 


 

 しかし、それがわかったところで、連日続く壮絶な絶望はどうすることもできない。私はワープロに文章をたくさん書きたかったのだが、壮絶な絶望が邪魔で執筆は思うようにはかどらなかった。


 


 

 ちょうどこの頃、日本の国民的ロックバンドへの階段を順調にのぼり続けていたミスターチルドレンの【トゥモロー・ネバー・ノウズ】という歌が大ヒットしており、その中に【勝利も敗北もないまま孤独なレースは続いていく】というフレーズがあった。


 


 

 【勝利も敗北もないまま孤独なレースは続いていく】━━このフレーズほど、当時の私の状況をいい表すフレーズはほかに存在しなかった。


 


 

 【ナイトヘッド】の主人公・直人と直也のふたりは救世主としてハッピーエンドをむかえたが、私のほうは連日襲いかかってくる壮絶な絶望と未来への莫大な不安しか見えず、どれだけ走り続けてもゴールが見えない孤独なレースを延々と延々とくり返すだけだった。


 


 

 そんな私は小学校の卒業旅行で行ったディズニーランドのことを思い出していた。当時の私に悩みはなにもなく、無邪気に感情を爆発させて遊んだものだった。それからわずか数年後、地獄のような生活をおくることになるとは……。


 


 

 『ああ、あの頃はよかったなぁ』と、私は15、6歳という年齢で過去を懐かしんでしまった。


 


 

 当時の仲間たちは今頃きっと高校に通って勉強に、部活に、恋にと、青春をエンジョイしていることなのだろう。それにひきかえオレは━━私は自分の限りなくぶざまな現状に悔し涙を流すしかなかった。


 


 

 そんな私の頭に【自殺】という言葉がちらつきはじめていた。毎日壮絶な絶望に襲われ続け、友達も相談できる人もひとりもいなかったのだから、当然といえば当然のことである。


 


 

 しかし、自分をあざけまくった中学時代のカサモト軍団のことを考えると、『自殺だけはできない』というもうひとりの自分が登場するのだった。このまま自殺したら世界を変えられないどころか、カサモト軍団にも一矢も報いることができない。それだけはぜったいに我慢ならなかった。


 


 

 私は左胸を絶え間なく鋭利なナイフでグサグサやられ、左胸から絶え間なく大量の血を流しながら、目を血走らせて世界を変える方法を考え続けるしかなかった。


 


 

 ちなみにこの壮絶な絶望地獄は、1994年の7月頃から翌年の3月頃まで続いた。

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