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第3部 第3話【孤独との戦い】

 建設会社のマンションにたどり着いて夕食を済ませたあと、私は夜の近所を走り続けていた。目的地などなにもない。何分走るのかもきめていない。ただただ頭と胸を襲い続ける憂鬱の霧を振り払うように、私は闇の中をどこまでも走り続けていった……。 


 


 

 2日後の朝、ついに親方とミスターXのふたりと再び顔を会わせるときがやってきた。


 


 

 私は工場に向かう前にテレビをつけ、【ズームイン朝】というニュース番組を見た。司会は私が小学生の頃によく見ていた【アメリカ横断ウルトラクイズ】【高校生クイズ】の司会でもあった福留さんという人である。


 


 

 福留さんの声はいつ聞いてもあたたかく癒されるものだった。小学生の頃は『高校に行ったら自分も【高校生クイズ】に出たいな』などと思っていたが、私の夢はかなえられることはなかった。


 


 

 時計の針が朝の8時を指す━━私は暗い顔、暗い気分のまま立ち上がって工場に向かった。


 


 

 工場にはいつもの面々がいた。その中にはサルヤマはもちろん、親方とミスターXのふたりも……。


 


 

 その日からである。親方とミスターXの私に対する罵倒と嘲笑が本格的に激しさを増したのは。


 


 

 とにかく、私はなにをやっても睨まれた。座って作業しようと、立って作業しようと、どこでなにをやっても親方とミスターXに強烈な怨念を込めた目で睨まれ続けた。


 


 

 いうまでもなく、私は仕事をほったらかしにして遊びに行ったことも、彼らに不遜な言動や失礼な言動をとったことも、不真面目な態度でいい加減な作業をしたこともない。与えられた仕事を自分なりに黙々とこなし続けていただけだ。


 


 

 また、私はもともと手先が器用なので、作業の進み具合や完成度は悪いほうではなかったと思う。


 


 

 しかし、私がどれだけ真面目に作業に取り組んでも、親方とミスターXの睨みは最後までなくなることはなかった。そして要所要所でコミュニケーション能力を欠いた暗い性格をバカにされ、私は1秒1秒が死闘の連続の日々だった。


 


 

 相変わらず友達はひとりもいず、そんな私を嘲笑うかのようにあのサルヤマが、私より3、4歳年上のグループの人たちと楽しそうに談笑したりしていた。やがてその3、4歳年上のグループの人たちも私を嘲笑するようになっていった。


 


 

 さらにである。中学時代と同じように、私は工場内でも1番背が高い人間だった。最年少で最長身の人間がほかの社員からあざけりを受け続ける━━この屈辱感を味わった経験がある人は、果たして世界に何人くらいいるのだろうか……?


 


 

 くる日もくる日も親方とミスターXに睨まれ続ける日々。この頃、【家なき子】というドラマが流行っており、私は毎回人生の壁にぶち当たる主人公の少女と自分を重ねたりしていた。


 


 

 建設会社に就職して2ヵ月目。せっかく引っ越しまでしたのだが、これ以上私にこの会社にい続けろというのは針の山を登れといっているのと同じことだった。私はわずか2ヵ月でこの建設会社をやめることにした。


 


 

 ただ、孤独に満ちた日々だったものの、アカダさんとアケダさんをはじめ、親切な人もそれなりにいた。そして同居していたアカダさんにやめることを告げると、明らかに不機嫌そうな様子だった。どうやら私が親方とミスターXにあざけりを受けていたことは、アカダさんの耳には入っていなかったようだった。


 


 

 そしてむかえた建設会社最後の日の朝礼。見渡すといつもの見慣れた面々が揃っていた。


 


 

 今日で最後だ。これでようやく暗い性格をあざけられることも、猫背をあざけられることも、【おつかれさまでした】というあいさつすら知らない小卒同然の無知さをあざけられることもなくなる━━。


 


 

 しかし、建設会社最後の日は、そのまますんなり終わってはくれなかった……。


 


 

 午後4時50分頃だったか。ミスターXが私に向かって究極の“悪魔の言葉”を吐いたのである。


 


 

 その悪魔の言葉とは、別段どうということはない普通の言葉である。それまでの人生の中でもたくさん耳にしてきたものだった。


 


 

 しかし、ミスターXが口にしたことによって、私にとってはぜったいに耳にしてはならない、究極の悪魔の言葉に激変してしまうのである。


 


 

 しかし、その悪魔の言葉による絶望はまだはじまることはなく、私は一応の安堵のため息とともに工場をあとにした。

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