第2部 第4話【J━POP】
中学2年から不登校になり、2ヶ月ほど無の日々をおくり続けていた私だったが、母から小遣いをもらって久しぶりに外に出てみることにした。
向かった先はCD屋。私がそれまで音楽を聴く手段はビデオばかりだったのだが、姉が少年院に入っていた頃、姉のウォークマンをこっそり借りてCDで音楽を聴くようになったのである。それからの私はいろいろなアーティストのCDを集めるようになっていった。
そんな私が生まれてはじめて買ったCDは、ストーンズの【スティル・ホイールズ】というアルバム。次がジョン・レノンのベストアルバム【ザ・コレクション】。
しかし、この頃から私の関心は洋楽から邦楽に移りつつあり、3番目に買ったCDは日本ビートロック界の帝王・氷室京介の【マスターピース♯12】というものだった。
よく『日本人に生まれて良かった』という言葉があるが、日本人読者のあなたはどんなときにこの言葉を使うだろうか?わたくしメシアは迷わず『氷室京介の歌声を聴くとき』と答える。
氷室京介は日本トップクラスのアーティストではあるが、世界的にはほぼ無名である。よって、氷室京介の歌声を聴いたことがない人は、世界に星の数ほどいることなのだろう。そうした人たちがかわいそうでしかたがない。
氷室京介の歌声は美しく低く、一種の中毒性があるものである。そんな氷室京介を真似て私は頻繁に歌をうたうようになっていった。
そして気づいたことがある。小学生の頃は特に意識したことはなかったのだが、私はものすごい歌がうまいのである。
ストーンズとプリンスに熱中していた頃は聴くだけであり、英語の詩ということもあってか自分でうたうようなことはなかった。しかし氷室京介との出会いによって頻繁にうたうようになり、自分の天性の歌唱力を自覚するようになっていった。
さらにである。私の低音は氷室京介にそっくりなのだ!
それからの私は氷室京介と、氷室京介が在籍していたバンド、BOφOWを中心に日本のアーティストのアルバムを揃えるようになっていった。ざっとあげるだけでもアルフィー、TMN、YMO、X JAPAN、T━BOLAN、久保田利伸、徳永英明などのアルバムを買い込んだのを覚えている。
家族が全員いなくなり、メシア家が自分ひとりになったのを確認して歌をうたい続ける日々。私は声が氷室京介にそっくりで、長身の体型が布袋寅泰(元BOφOYのギタリスト)にそっくりだったため、自分のことを氷室京介と布袋寅泰を合体させた存在だと思うようになっていった。
ちなみにこの頃、10代のカリスマ尾崎豊が他界し、ワイドショーでは連日にわたってそのニュースをとりあげていた。私が尾崎豊のアルバムを買うのは、もう少したってからであった……。