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第1部 第11話【イマジン】

 ストーンズとプリンスのビデオを毎日交互に見続け、映画番組や深夜番組も毎日欠かさず見続ける生活をおくっていた1990年。それも12月に入り、世の中はクリスマスシーズンに入っていった。


 


 

 クリスマスといえば、母が毎年口にするダジャレがあった。


 


 

 「うちはクルシミマスだね(苦笑)」


 


 

 相変わらず父は給料の大半を酒代につぎこみ、母は内職に、パートに、創価学会の活動にと忙しそうにしていた。


 


 

 母に訊いてみたところ、父が母に毎月渡す金は12万ほどだという。しかし、同じく父親がタクシードライバーの友達に訊くと、毎月30万円は家に入れているという……。


 


 

 12万と30万━━これでは母が働かなくてはいけないわけである。


 


 

 しかし当時、まだ子供だった私は母の苦労はほとんど理解できず、ストーンズとプリンスのビデオに囲まれる薔薇色の毎日を延々とおくり続けていた。


 


 

 そしてむかえた1990年12月。世界はとあるひとりの限りなく偉大なロックアーティストの没後10周年を祝うことになる。そう。元ビートルズのジョン・レノンである。


 


 

 1980年の12月、ジョン・レノンは狂信的なファンに射殺され、それからちょうど10年が経過しようとしていたのだ。


 


 

 ジョン・レノンが射殺された頃、私はまだ2歳。そのためビートルズ時代はもちろんソロ時代もまったく知らないのだが、ストーンズのライバル、またはそれ以上とされる20世紀の奇跡ビートルズの映像や名曲の数々はテレビでよく見ていた。


 


 

 そして1990年12月にフジテレビで【LOVE永遠のジョン・レノン】という特番が放送されることを知り、私はこのうえない興奮と喜びをおさえながら日々をおくっていった。


 


 

 むかえた番組当日。たしか夕方の番組案内で司会の女性が『私は【ウーマン】が好きなんですけど……』といったことをしゃべっていたような記憶がある。


 


 

 夜の9時だったか。ついにフジテレビでジョン・レノン没後10周年記念特番【LOVE永遠のジョン・レノン】がはじまった。


 


 

 スタジオには1980年代最大のアイドルポップバンド、チェッカーズ。日本ロック界の長老アルフィー。日本の女性ロックシンガーのパイオニア、アン・ルイス。そしてこの頃、アニメ【ちびまるこちゃん】の主題歌【おどるポンポコリン】が大ヒットしていたBBクイーンズがゲスト出演していた。ちなみにアルフィーとBBクイーンズはなにをうたったのか忘れたのだが、チェッカーズはビートルズの【愛こそはすべて】をうたい、アン・ルイスはジョン・レノンのソロ曲【スターティング・オーバー】をうたった。


 


 

 無論、外国でもジョン・レノンの没後10周年イベントはおこなわれており、エルトン・ジョンが【イマジン】をうたい、ホール&オーツが【ドント・レット・ミー・ダウン】をうたった。


 


 

 また、ジョン・レノンの息子であるショーンと奥さんのオノ・ヨーコの映像も流れた。ショーンは語る。


 


 

 「父さんからはいろんなことを教わったよ。フォークの使い方とか泳ぎ方とか」彼は続ける。「僕の中にはふたりのジョン・レノンがいる。ひとりはベッドインとかやった有名なジョン・レノン。もうひとりは父親としてのジョン・レノン」


 


 


 そのあとショーンとオノ・ヨーコの歌の映像が流れた。どうやらショーンはジョン・レノンの血が圧倒的に多いらしく、顔も姿もジョン・レノンにそっくりだった。


 


 

 終わると画面がスタジオに戻り、司会の男性が口を開く。


 


 

 「今のがジョンの息子のショーンだったんですけど、16歳にしては落ち着いてましたね」


 


 

 番組も終わりに差し掛かり、ゲスト全員のコメントが流れる。ちなみに最後にコメントしたのがBBクイーンズの女性ボーカリストの人で、『私、好きになる人が必ずジョン・レノンのフリークなんですよ』といった。その瞬間、苦笑いするアン・ルイスが映し出された。彼女も似た経験があるのだろうか?


 


 


 続いてジョン・レノン展のお知らせが流れる。それが終わると、画面中央の男性司会者がしめくくる。


 


 

 「今も世界のいたるところで血が流されていて、人が人を苦しめるという時代があるわけなんですけど、そうしたことに常に反対し続けていたジョン、愛を叫び続けていたジョン・レノン。彼の遺志を引き継いで、愛に満ちた地球にして、また次の世代に伝えていきたい、そのように思います」


 


 

 最後は出演者全員で【パワー・トゥー・ザ・ピープル】をうたい、希望の笑顔とともに番組は終了していった。


 


 

 ビデオの録画を止めた私は、しばらく呆然とし続けた。


 


 

 私の中ではストーンズとプリンスこそが“神”だった。しかし、ビートルズはそれ以上といわれており、ビートルズの中心人物だったジョン・レノンにいたっては、亡くなってから10年後に世界中でイベントがおこなわれるのである。あとに先にもこんなミュージシャンはあらわれないだろう。


 


 

 と、そのときだった。CMが開けたテレビ画面からピアノのメロディーが聴こえてきたのである。見ると一組の男女が寄り添って歩いているシーンが流れていた。そして画面に曲名のテロップが出る。


 


 

 【IMAGINE】


 


 

 番組はまだ終わっていなかったのだ。私は急いで録画を再開させた。


 


 

 大きな白い家の中。ピアノを弾きながらうたい続けるジョン・レノンと、部屋中の窓をひとつひとつ開けていくオノ・ヨーコ。そしてオノ・ヨーコがジョン・レノンの隣に座る。


 


 

 『僕を夢想家と呼んでもいいよ。だけど、それは僕だけではないはずだ。いつか君も仲間にくわわれば……』オノ・ヨーコを見つめるジョン・レノン。振り返るオノ・ヨーコ。『この世界はひとつに結ばれるのさ』


 


 

 ジョン・レノン没後10周年記念特別番組【LOVE永遠のジョン・レノン】終了。


 


 

 ━━それからの私は【LOVE永遠のジョン・レノン】のビデオをくり返し見出し、特に最後の【イマジン】のプロモーションビデオは最低でも1日20回はくり返し見た。


 


 

 派手な演出もなければ金もかかっていない。限りなくシンプルなプロモーションビデオなのだが、私には【イマジン】のほんの3分ほどのプロモーションビデオに壮大なドラマを感じるのである。また、20世紀最大のロックアーティストが、自分と同じ日本人と結婚をしたというところも興味深かった。 


 


 

 そんなジョン・レノンの顔を、私は神を崇めるような感覚で見つめるようになっていった。


 


 

 あのストーンズやプリンス以上の存在とされている人なのだから、それはもはや“神”であるにちがいない。ジョン・レノンはきっと神様なのだ……。

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