表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/57

第1部 第10話【プリンス】後編

 ━━家族全員が寝静まったある日のメシア家。私はイヤホンでテレビを見ながら興奮をおさえるのに苦戦していた。ついにプリンスの代表曲【パープル・レイン】を聴くことができるのだ!


 


 

 やがて番組がはじまる。オープニング曲はディズニーランドなどで流れていそうなファンタスティックなナンバー【テイク・ミー・ウィズ・ユー】。 


 


 

 と、【テイク・ミー・ウィズ・ユー】が終わった次の瞬間である。テレビ画面が一気に真っ赤に染まり、プリンスのエレキギターから強烈なハードロックのメロディーが流れたのだ。


 


 

 【バンビ】━━私はこの曲が流れている最中、立ち上がって寝ている家族のほうを頻繁に確認した。イヤホンで聴いていたとはいえ、それまで聴いたこともないものすごい大音量のハードロックだったので、『家族に聞こえているのではないのか?』と危惧したからだ。


 


 

 やがて【バンビ】は終わり、次に演奏されたのはラップナンバーの【アルファベットストリート】。それが終わると最初のCMに入った。


 


 

 CMが開けて次に演奏されたのは【キッス】。プリンスが姿を消すと、あのロージーがマイクを持ってステージの前に出てくる。


 


 

 ロージーの歌声にギターのミコとベースのレヴィが楽器で応える。やがてロージーも元のキーボードの位置に戻り、観客はロージーの『ヘイ!』に合わせてうたい続ける。 


 


 

 そのとき、白亜のギターを肩にかけたプリンスが出てきて、映画【OO7】のテーマを軽く弾いたりした。そしてステージの中央にたどり着き、ブラックホールに吸い込まれるような不思議な音ともにしゃがみこむ……。


 


 

 やがてどこからか風のようなギターの音が聴こえてくた。そしてテレビ画面の右下に曲名のテロップが出る。


 


 

 【PURPLE RAIN】


 


 

 その瞬間、私はこう感じた。『自分はこの曲を聴くために生まれてきたのだ』と。


 


 

 なにも考えることはない。ただ心を無にしてプリンスのギターの音色に耳を傾け続ければいいのだ。


 


 

 プリンスのギターの音色がすべての苦しみも、すべての悲しみも包み込んでくれる。人々はプリンスのギターに心をゆだね、安らかな笑顔を取り戻せばいいのだ。


 


 

 やがて東京ドーム中を壮大な感動で席巻した【パープル・レイン】が終わってCMに入った。


 


 

 ……プリンスの【パープル・レイン】をはじめて聴いてから20年以上が経過するが、私はいまだにプリンスこそが史上最高のロックギタリストだと確信している。


 


 

 一般的に世界の3大ロックギタリストといえば、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、エリック・クラプトンの3人だとされているが、私の中の最大最高のギタリストはプリンスなのである。


 


 

 私は素人なので技術的なことはまったくわからない。専門家にいわせれば無数の意見が出るのだろうが、素人が聴いても、子供が聴いても、誰が聴いても、別格の感動と衝撃に全身が支配されるギターソロは、私はいまだにプリンスの【パープル・レイン】しか知らない。


 


 

 ━━なにはともあれ、ついに念願の【パープル・レイン】もビデオに録画でき、私は毎日夢のような気分でプリンスのビデオを見続けた。


 


 

 そんなある日、珍しく酒を飲んでいない父が『へんなの見てるなぁ』といったのだ。私はそのとき、プリンスの【ザ・クエッション・オブ・ユー】という曲を見ていたのである。


 


 

 この曲の中でプリンスはマイクスタンドを女体のように扱って卑猥なパフォーマンスをしたり、野良犬のような奇声を発したりするのだ。それを見た父が奇異に感じたのだろう。


 


 

 実ははじめの頃、この【ザ・クエッション・オブ・ユー】のところだけ早送りして飛ばしていた。まだ子供だった私にはプリンスの奇怪なパフォーマンスは刺激が強すぎたのだろう。


 


 

 しかし、次に演奏される【ホエン・ドブス・クライ━━ビートに抱かれて】はちがった。【パープル・レイン】は別格のナンバーワンだが、次に好きな曲をあげろといわれたら文句なしに【ビートに抱かれて】である。それほどにカッコイイ曲だった。


 


 

 かくしてストーンズ一色だった私の生活はプリンス一色になり、プリンスの来日東京ドーム公演のビデオをくる日もくる日も延々と延々と見続けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ