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第1部 第9話【久しぶりの野球】

 1990年に入ってからも、相変わらず映画番組は欠かさずに観ていた。シルベスター・スタローンもの、アーノルド・シュワルツェネッガーもの、チャック・ノリスもの、トム・クルーズもの、ケビン・コスナーもの、ジャッキー・チェンもの、クリント・イーストウッドものなどなどなど。


 


 

 私は別に映画が好きなわけではなかった。事実、中学以降からは映画はまったく観なくなっていった。しかし、なぜか観なければいけない不思議な義務感があったのだ……。


 


 

 私の映画鑑賞は深夜番組の鑑賞とともにいつまでも続いていった。


 


 

 そんなある日、私は久しぶりになんとなく外に遊びに行った。


 


 

 普段みんなが集まる公園があり、そこは団地の22号棟の近くにあることから【22(にじゅうに)】と呼ばれていた。


 


 

 その22にふらっと寄ってみると、やはりみんなが集まって野球をやっていた。


 


 

 試合前の選手の取り合い。あのクズノが私をチームに入れようと提案するチームメイトに『ホームラン打つ?ホームラン打つ?』とたずねていた。


 


 

 しばらく私が外で遊ばないうちにみんなの間におこなわれる遊びはキックベースから野球に変わっており、あの嫌われ者だったはずのクズノがリーダー的存在として活躍していたらしい。そしてチームメイトに私の野球の実力を確認していたというわけだ。


 


 

 相変わらずムカつく野郎だが、ホームランなどというのは野球の実力をはかる要素のほんの一部にすぎない。ホームランはあまり打てなくても守備や走塁がうまかったり、バントなどの小技がうまかったりする人でも充分に戦力にはなるはず。それだというのにホームランを打てるか打てないかで実力をはかるとは素人丸出しである。


 


 

 ちなみに以前、私はクズノにふりかぶらない投球フォームをバカにされたと書いた。当時は知らないことだったのだが、実は私がおこなった投球フォームは【ノー・ワインドアップ投法】という専門的な名前がついたものだったのである。


 


 

 ノー・ワインドアップ投法のノの字も知らない分際で、野球遊びのリーダー面していたクズノがあまりに滑稽に感じる。


 


 

 結局、私はクズノのチームに入ることになったのだが、私がヒットを打ったときにちょっとした事件が起きてしまう。ヒット後、私が放り投げたバットが、キャッチャーをやっていた奴の顔に当たってしまったのだ。


 


 

 キャッチャーをやっていた奴━━実はそいつは以前にちらっと書いたファミコン仲間のウエノで、彼は少年野球チームのエースサウスポーとして活躍しているらしい。バットが顔に当たったウエノは手で顔をおさなえがらうずくまってしまった。そして私のヒットは無効になり、なぜかアウトになってしまった……。


 


 

 しばらくたってから私の次の打席のときである。キャッチャーをやめてほかのポジションに立っていたウエノが、ピッチャーからボールを奪い取ってピッチングを開始したのだ。バットを顔に当てられた復讐というわけである。無論、復讐というのはただの口実で、『みんなの前でオレの得意のピッチングを披露できるチャンスがやってきたぜ、ケケケ』といった自己顕示欲による行動であることはみえみえだったが。


 


 

 しかし、である。投げたバットがキャッチャーの顔に当たったらアウトになるなどというルールは聞いたことはないが、ヒットが無効になってアウトになったのだからそれで終わりでいいではないか。ウエノの行動はまったく筋がとおっていない。


 


 

 これは危険球を当てられて怒り狂うプロ野球のバッターにも同じことがいえる。危険球を当てたバッターはルールどおりに退場するのだから、それで終わりでいいではないかといつも思うのだが……。


 


 

 ちなみにもしも私がリトルリーグの強打者としてならしているような奴だったなら、ウエノはぜったいにピッチングを開始することはなかっただろう。相手の私が打ちとれて当然の素人だからこそピッチングを開始したのだ。


 


 

 そんなウエノといえば、もうひとつ気にかかる発言がある。この日のことではなくずっと以前のある日のこと。ピッチャーをやっている子の投球フォームを見て、『おいおい、あれじゃ、ボークじゃないかよなぁ?』といったのだ。


 


 

 が、しかし、である。本で読んだことがあるのだが、ボークというのは基本的にピッチャーがピッチャーズプレートの上に足を乗せた状態でなんらかの行動をとったときにとられるものである。


 


 

 我々のはただの遊びの野球だ。ピッチャーズプレートなんてものは存在しなかった。100歩ゆずってピッチャーズプレートがあったとしても、数十メートル離れたところからピッチャーズプレートがあったかないか、ピッチャーがピッチャーズプレートを踏んでいたか踏んでいないかを確認できるとは考えづらい。


 


 

 少年野球チームのエースとして活躍していたらしいウエノなのだが、果たして本当にボークの対象行為を知っていたのだろうか……?


 


 

 くどいようだが、最後にもうひとつだけ。私を相手にピッチングを開始したウエノがボールを投げたとき、それまでピッチャーをつとめていた奴が『今の(ストライク)入ったんじゃないのー?』などといったりしてウエノを援護したりしていた。


 


 

 実はそいつはウエノと同じ少年野球チームでキャッチャーつとめている奴らしいのだが、そいつによるとタッチアップは2、3塁からだけであり、1塁からのタッチアップはルール上できないのだという。


 


 

 いうまでもなく、1塁からもタッチアップは、100%ぜったいにできる。それだというのに、なぜタッチアップは2、3塁からしかできないなどということをいったのか?


 


 

 理由はおそらく━━【テレビのプロ野球中継で2、3塁からのタッチアップしか見たことがないから】━━だと思われる(笑) 


 


 

 せっかく久しぶりに外に遊びに出たというのにいやな思いを味わってしまったのだが、野球の映画といえばチャーリー・シーンの【メジャーリーグ】というものがある。


 


 

 その続編に出演したこともあるお笑いコンビ、とんねるずの石橋貴明がこの頃テレビ番組で、外国のアーティストのプロモーションビデオのパロディーに挑戦していた。曲のタイトルは【バットダンス】。石橋貴明にものまねをされているアーティストはプリンスという人らしく、国籍不明の不思議な外見の人だった。


 


 

 今思うと石橋貴明のこのパロディー企画は、プリンスの初来日を記念してのものだったのだろう。そして私は間もなく、ストーンズ一色の日々からプリンス一色の日々に変わっていくのであった……。

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