やってしまいました
「だーめーでーすーーーー!!!」
「え? ちょ? こころ?」
我ながら物凄いダッシュだったと思う。
今にもチョコに触れそうな桃坂先輩の右手めがけて、私は突進した。
だめだめだめったらだめなのだ!!
桃坂先輩は私のなんだから!!
どんなに真理奈先輩が可愛くて綺麗でも!!
私なんかより桃坂先輩に相応しい人でも!!
それでも桃坂先輩のこと一番大好きなのは私なんだから!!
だから真理奈先輩のチョコなんて受け取らないで!!
私は力の限りぎゅーっと桃坂先輩の右腕に抱きついた。
絶対、絶対に、離さないんだから!!
「えーと、これどういうことなの?」
一生懸命ぎゅうぎゅう桃坂先輩の右腕にかじりついていたら、不思議そうな桃坂先輩の声が降ってきました。
「佐倉?」
どうどうと宥めるように桃坂先輩の手が私の頭を撫でる。
「だって、そのチョコ」
「これ?」
ああっ。
間に合わなかったの!?
桃坂先輩の右手にはチョコらしきものが……?
「あれ?」
このチョコ、どこかで見たような気がするのですが?
目をぱちぱちさせて、桃坂先輩の持っているチョコをよおく見る。
「これって、私の作ったチョコじゃないですか!?」
桃坂先輩が持っているのは、さっき真理奈先輩にあげた私の友チョコだった。
え?
えっと……?
「やっぱりそういうことよねえ」
「そりゃそうだわ」
一歩離れた場所で、真理奈先輩と朧先輩がにこにこ笑っている。
そういうことって、どういうことでしょう。
「だからこころちゃんは深く考えすぎだって言ったでしょ? 好きだとか嫌いだとか、そういう感情は湧きあがってくるもので、考えたって仕方ないんだから」
「真理奈先輩? 桃坂先輩に渡すチョコは?」
バカみたいに尋ねる私に、真理奈先輩は天使の笑みを浮かべる。
「なに言ってるの。大事なこころちゃんの大事な人に、私が本命チョコ渡すわけないでしょ? それにどれだけ桃坂がカッコよくなったって、桃坂は桃坂だよ? 全然私のストライクゾーンじゃないもーん」
「そうそう。桃坂の彼女なんて、ぜーったい私たち無理だから」
「俺も無理だし」
「え? じゃあなんで桃坂先輩はここにいたんですか?」
「そいつらに佐倉のことで大事な話があるからって、呼び出されたんだ」
私の!?
「大事なことだったでしょ? こころちゃんの本心が聞けたんだもの」
「ねー」
本心!?
聞けた!?
まさか心の声が漏れてた!?
「じゃあ私たちは退散するわね。久しぶりにラブラブなところを周りにアピールしておいたら? 二人は別れてないって」
真理奈先輩に言われて、はっと気が付く。
ちょっと待って。
私、桃坂先輩の腕に……。
今の状況を把握した途端、かーっと頭に血が昇るのが分かった。
「ちょっと朧、なんでこころちゃんからもらった方のチョコ出さなかったのよ」
「だって本当に桃坂に取られちゃったら嫌でしょ」
「もう。私の桃坂にあげちゃったから半分ちょうだいね」
「えー。しょうがないなあ」
仲良くじゃれあいながら校舎の中に戻っていく先輩たち。
その向こうに見える校舎の窓には、やっぱりというか何というか、たくさんの顔が覗いていた。
「なんなんだよあいつら」
不思議そうな桃坂先輩の声が頭のすぐ上から降ってくる。
近い。
桃坂先輩の声が近すぎます。
そりゃそうだ。
だって私、桃坂先輩に抱きついてるしーっ。
みんなに見られてるしーっ。
「で? 俺が佐倉のものってことは、佐倉は俺のものってことでいいんだよな」
そろそろと顔を上げると、柔らかい表情を浮かべている桃坂先輩と目が合いました。
鬼みたいな顔をしてる桃坂先輩は怖かったけど、別の意味でその笑顔、破壊力ありすぎです。
ギブアップしてもいいですか?
「帰りは一緒に帰ろうな」
耳元でささやくのは反則です。
だれか、たーすーけーてー。




