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待てはつらいよ

二話続けての投稿です。

今回は桃坂先輩視点になります。 

 多分、いやきっと俺たち二人は両思いだと思う。

 俺は佐倉に好意を持っていて、佐倉は俺に好意を持っている。

 互いがそう認識しているこの関係に名前を付けることに、大して意味なんかないのかも知れない。

 いや。

 反対に名前なんか付けない方がいいのかも知れない。


 遊園地を出てからバスに乗り、地元のファミレスで夕飯を食べたけど、佐倉の目が俺の顔を見ることは、一回もなかった。

 何かの拍子に目が合いそうになったことは何度かあったけど、その度に佐倉は慌てて目を逸らす。

 それが照れているとかそういう可愛らしいものではなく。

 困惑とか混乱とか、そういう負の感情がダダ漏れで。

 やっぱ言わない方がよかったのかも知れないと思ったりもするけど。

 でも言ってしまったものはどうしようもない。

 今言わなかったとしても、きっといつかは言っちゃうだろうし。







 俺が告白をしたら、佐倉がこんな反応をするだろうことは、ある程度想定内のことだった。

 出会ってからの期間はそれほど長くはないけれど、その中で誰といた時間が一番長いかと問われれば、それは間違いなく佐倉だ。

 それだけ長く一緒にいたら、何も聞かなくても、佐倉が他人と深く関わることに不安を持っていることなんか分かってしまう。

 俺が佐倉にちょっかいをかけ出した頃に、一之瀬からもそれとなく釘は刺されていたし、夏休みに街で会った高橋からも、佐倉の事情はちらっと聞いていた。

 佐倉が俺たちの関係に名前をつけることを怖がっているなら、曖昧なままでいい。

 名前を付けることによって壊れる危険の方が大きいなら、別に俺は佐倉の一番親しい先輩でもいい。

 その時はそう思っていたのだけれど。


 佐倉に覚悟しておけと宣言してから。

 冬休みに佐倉への気持ちを自覚してから舞い上がり気味だった頭をちょっと冷やそうと、学校内では佐倉に会わないようにしていた。

 すると誰が言い始めたのか、俺と佐倉が別れたという噂が学校を飛び交い始めた。

 いやいや待って。

 俺、これから付き合ってって言おうと思ってるとこなんだけど。

 付き合ってないのに別れたってどういうこと!?

 まあこれも俺があんまりにも佐倉にまとわりつき過ぎていたってことなのかな。

 そんな風に気楽に考えていたら、どういう訳かやたらと知らない女子に告白されることが多くなった。

 なんで俺急にモテてんの?

 中学までは兄貴の影で、高校に入ってからは佐藤の影で、モテない男子代表だったはずなのに。

 島田の情報では、佐倉に声をかける男もちらほらいるらしいし。

 やっぱりちゃんと気持ちを伝えて付き合わなきゃだめだよな。





 そんな訳で生まれて初めての告白というものをしたのだが。

 

 また距離を置かないといけないというこの状況。

 すぐにいい返事を聞けるとは思ってなかったけど。

 ちょっとへこむ。

 



 

 そんなある日。

 佐倉に会えないもやもやを少しでも晴らそうと、昼休みに友達とバスケで遊んでいると、同じ中学出身のバスケ部の先輩が声をかけてきた。


「おう。桃坂。お前彼女と別れてようやくバスケ再開する気になったの?」

「なんなんすかそれ。別に俺、別れてもないし。それに三年になるこの時期からバスケ部に入る気もないですから」

「えー。カッコつけてるだけじゃないのー? すげえ噂になってるよ」


 俺がそう言うと先輩は俺の背中に乗りかかるように肩を組んできた。

 まじうぜえんだけど。


「つーかお前とあの一年の子、ほんとに付き合ってんの?」

「は?」

「なんかさ、お前とあの子じゃ温度差ない? ほんとは彼女の方は付き合ってるつもりないんじゃないの?」

「……」


 なんかすっげー痛いところを突かれちゃった気分。

 確かに温度差、あるんだよね。


「あれ? 黙っちゃってどうしちゃったの? ほんとに付き合ってないとか?」

「そんなことないっすよ」

「あーやしーなー。俺、彼女に突撃しちゃおうかなー」

「単に興味本位ならやめてくださいよ」


 いつもなら適当に流すところだけど、言葉が尖るのを抑えられない。

 遊び半分でちょっかいかけられたら堪んないし。

 するとようやく俺から離れてくれた先輩は、腕組みをして意味ありげに俺を眺めた。


「なんなんすか。ほんとに」

「後輩の彼女取るような真似はしないけどさ、本当に付き合ってんならちゃんとしとかねえと、隙を見てる奴はいると思うよ。特に俺ら三年はもう卒業だからさ。玉砕覚悟でって奴もいるんじゃね?」

「……」

「ま、付き合ってても色々あるとは思うけど、彼女ほったらかしにして、バスケして遊んでる場合じゃないと思うけど」

「はあ」

「んじゃな。まー仲良くやれよ」


 頭の上で手を振りながら、先輩は向こうへ歩いていった。

 なにしに来たんだか。

 けど、ふと俺の心に不安がよぎる。

 なんでわざわざ先輩は俺をからかうようなことを言いに来たんだ?

 まさか警告?

 先輩の知ってる奴が佐倉に告白しようとしてるとか?

 もしそんなことがあったとしたら……。


 あいつ、ちゃんと断れるんだろうか。

 俺が言うのも何だけど、佐倉は押しの強い人間にはとことん弱い。

 もし誰か押しの強い男が、噂を信じて佐倉を落としにかかったら。


 ……非常に不安だ。


「早く会いてーな」


 思わず漏れた本心は、冬の空に吸い込まれていった。

 

 

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