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最大の敵は自分です

 遊園地からの帰り道、夕飯を食べるために家の近くのファミレスに入ることになった。

 ファミレスでは終始挙動不審な私を、桃坂先輩が甲斐甲斐しくお世話してくれました。

 いやもう、桃坂先輩余裕あり過ぎでしょ。

 てか私がテンぱりすぎなんだけど。 

 

 そんな味も分からないような食事を済ませ、月夜に照らされた夜道を黙って並んで歩く。

 ファミレスを出るまではテンション高めだった桃坂先輩も、お腹がいっぱいになったからか、無言のままだ。

 

 桃坂先輩はすぐに返事しなくていい、と言ったけれど。

 このまま何もなかったように過ごせるなら過ごしたいけれど。

 きっと私には無理だ。

 まっすぐに好きだという気持ちをぶつけてきた桃坂先輩に、明日からどう接すればいいのか分からない。

 だけどその気持ちをどんな言葉で伝えればいいか分からなくて。

 もんもんと考え込んでいると、あっという間にマンションが近付いてきた。

 

 

「あのさ、佐倉」


 角を曲がればマンション、というところで立ち止った桃坂先輩が口を開いた。


「困ってる?」


 困ってるに決まってるじゃないですか。


「やっぱ困ってるよね」


 頭の上で苦笑されたのが分かって、なんでだろう。

 無性に腹が立ってきた。

 だって桃坂先輩、余裕あり過ぎでしょ?

 私がこんなにテンパってるのは、桃坂先輩のせいなのに。

 

「あのさ、好きだって伝えたからって無理に迫ったりしないし、今まで通りは無理?」

「無理です」


 即答です。

 そう。

 どう考えても今まで通りになんて、無理です。


「じゃあどうしたらいい?」

「分かりません」

「分かんない、か。佐倉らしいね」


 無理とか、分からないとか、まるで子供が駄々をこねているような私の返事に、桃坂先輩はやっぱり困った顔で笑っただけだった。

 それが更に私の感情を煽る。

 逆切れだって、八当たりだって、分かってるけど。

 ようやく見つけた怒りという出口に向かって、感情が溢れ出すのを止められない。


「そんなに私のことが分かってるなら、私が困るってことも、分かってましたよね?」


 私の責めるような口調に、桃坂先輩はあっさりと頷いた。


「まーね」

「じゃあなんで……」


 思わず声が震えて、先を続けることができなかった。

 なんで好きだなんて言ったんですか?

 桃坂先輩の隣にいるだけで、私は満たされていた。

 そばに居られれば、それだけで良かったのに。

 言葉なんか、私には必要なかったのに。


「ごめん。全部俺のわがまま」


 桃坂先輩の大きな手の平がそっと私の頭を撫でた。

 こうやって触れてくるこの手が大好きなのに。

 何も考えずにその胸に飛び込んでいけたら、どんなに幸せだろうか。


「……私にもしばらく、時間をくれませんか」


 その手を失うのが怖いのに。

 その温もりから離れたくないのに。

 

「……分かった」


 桃坂先輩と距離を置きたいと言ったのは私なのに、分かったと言われて目の奥が熱くなった。

 離れたくないと、心が悲鳴を上げる。


「ごめん。泣くなよ」


 月だけが照らす夜道。

 顔なんかはっきり見えるはずないのに。

 なんで泣きそうなのがバレちゃうんだろう。


 頭の上に置かれていた桃坂先輩の手がするりと背中に回った。

 と思った時には、私は桃坂先輩の腕の中にいた。


「明日から一緒には帰らないけど、夕飯はちゃんと家に食べに来いよ?」


 頭の上から桃坂先輩の優しい声が降ってくる。

 桃坂先輩の肩におでこをくっつけて、私は黙ったまま何度も頷いた。




 桃坂先輩の肩越しに見上げた夜空には、素直じゃない私を嗤うように三日月が冷たく光っていた。







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