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桃坂先輩のチョコ事情

 ショッピングモールの中は愛で溢れていました。

 真っ赤なハートとリボンのモチーフがいたるところに飾られ、キラキラしたハート型の風船があちらこちらで揺れている。

 ついこの間までのお正月ムードは一かけらも残ってない。

 バレンタイン一色だ。


「もうバレンタインなんですねー」

「ほんとだ。早いねー」


 別に自分がもらうわけじゃないのに、綺麗に飾られたチョコを見ていると何だか心がうきうきしてくるんだよね。理子先輩と一緒に可愛いチョココーナーのディスプレイを覗いていると、少し遅れて桃坂先輩たちがやってきた。


「うわ。とうとうこの季節が来たか」


 なんとなく憂鬱そうな言葉の響きに、思わず背後の桃坂先輩を振り返る。

 視線の先の桃坂先輩の顔は、やっぱりどことなく憂鬱そうだ。

 なんで?


「桃坂先輩、チョコもらえないんですか?」


 私が尋ねると、桃坂先輩は一瞬目を丸くした。


「え? なに? 佐倉の中では俺ってチョコをもらえない男子認定なの?」


 いやいや。そうじゃなくて。

 もらえる男子だと思ったから、憂鬱そうなのが意外だったんだけどな。


「静流は毎年結構もらってるよね」


 口を尖らせ不満顔の桃坂先輩の肩をぽんぽんと叩いて佐藤先輩が笑った。


「そうだそうだ。佐藤みたいな本命チョコはほとんどないけどな!」

「そこいばるとこ?」


 仲良く肩を組んだ佐藤先輩が桃坂先輩の顔を覗き込んでくすくす笑う。


「じゃあバレンタインは楽しいイベントじゃないですか」


 私がそう言うと、桃坂先輩は腕組みをしてうーんと唸った。


「まあ全然もらえないのもなんか悲しいけどさ、俺ほとんどもらったチョコ食えないから」

「もらったのに、食べないんですか?」


 なんで?

 桃坂先輩甘いの好きでしたよね?

 こないだもチョコアイスすごい勢いで食べてましたよね?


「義理チョコってさ、ほとんど手作りチョコじゃん」

「そうですね」

「うち、手作りチョコは絶対食べちゃダメって言われてるから」

「……言われてる?」

「うん。母ちゃんに」

「……」


 律子さん……。


「静流、ちゃんと話さないと、こころちゃん分かんないよ」


 佐藤先輩が優しくそう言うと、桃坂先輩はそっかと頭を掻いた。


「うちの兄ちゃんは佐藤並みにもてるだろ? だから学生時代は兄ちゃんにチョコを渡したい女の子でほんと大変だったんだよね」


 雅人さんですか。


「基本、全部断ってたみたいなんだけどね。兄ちゃんはスポーツ選手だったから、体調管理のために手作りはもちろん、市販品でも食べなかったからさ。それでも玄関の前に勝手に置いていく子とかもいてさ。そういうのって中身を確認しないで処分する訳にもいかないだろ? 母ちゃんが開けて、連絡先が書いてある子には食べられないから処分していいか確認をとってたんだけど、その中に恐ろしいものが入ってたことがあったらしくてさ」

「恐ろしいもの?」


 なんだろう。

 恐ろしいチョコ?

 呪いの言葉がチョコペンで書いてあるとか?


「それがくわしくは教えてくれなかった。どうも食べられないものだったらしいんだけど。知らない方が幸せだって」

「……」

「僕もさ、もらったチョコは全部欲しいって奴にあげてるんだけどさ。たまにあるよ。髪が出てきたとか、固いものが入ってたとか」

「……」

「偶然入っちゃったのか、故意に入れたのか、分かんないけどね」


 佐藤先輩、さらりと怖いこと言いましたね。

 

「母ちゃんしばらくチョコ触れなかったから、すっげえものだったんだと思うんだけどね。だから俺までとばっちりで友達からもらったチョコでも手作りは食べるの禁止になったんだ」


 憮然とした顔で言う桃坂先輩。

 そうか。手作りチョコは禁止なのか。


「なのにさ、ホワイトデーにはお返ししなきゃなんないし。ほんとめんどくせー」


 じゃあ理由を言ってもらわなければいいのに。

 なんだかんだと言っていても、優しいんだよね。この人。


「そんなことより早くお昼食べに行こうぜー。腹減った」

 

 そう言ってさっさと歩きだす桃坂先輩。

 その後ろ姿を見ながら、ふと思った。

 こんなにバレンタインデーを嫌がってるのに。

 私、桃坂先輩にチョコ、渡していいんでしょうか?

 




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