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寒い部屋と桃坂先輩

ずいぶん間が開いてしまいましたがまた楽しんでいただけると幸いです。

 冬休み最後の日。


「こころちゃん、用意できた?」

「はい」

「まあ忘れ物があっても、また明日の夜には来るんだしね」

「えー。本当に帰るのー? もういいじゃん。うちから学校通えばー」


 すっかりマンションに帰る用意ができたというのに、桃坂先輩は一人ソファーの上で不貞腐れている。


「別にお母さんはそれはそれで嬉しいんだけど」

「律子さん」


 流石に同じ高校の先輩と同じ家には住めませんよ。


「でもね、やっぱりそれはね、無理というものでしょ」

「そうですよね」


 律子さんが常識を知っていて本当に良かった。


「あなたたちが婚約でもしてたら学校に何とでも言うんだけど」

「……へ?」


 ちょっと?

 律子さん、何言ってるんですか?


「えー。じゃあそうするー? 佐倉」

「……」


 桃坂先輩まで。


「でもまだ時期尚早なんじゃない?」


 にっこり笑う律子さん。

 ビックリさせないでくださいよ。


「会えない時間が、二人の気持ちを育てるって言うでしょ」


 さあ行きましょうと宣言する律子さんに、ようやく桃坂先輩も重い腰を上げる。

 ほら、と私の持っていた小さなトランクを奪い、もう一方の手がするりと私の手を取った。

 ちょっとちょっと。

 なんで家の中でまで手を引かれなきゃならないのでしょうか。

 律子さん、この状況を笑顔でスルーですか?

 明日からの学校が本当に心配です。





 久しぶりに帰ったマンションはひんやりと静かに私を迎えてくれた。

 本当に久しぶりの一人きりだ。

 エアコンを入れて、自分の部屋に荷物を置き、コンビニで買ってきた朝食の食材を冷蔵庫にしまう。

 どうやらこのお正月中、涼子ちゃんは全く部屋には帰れていないようで、私が出た時と部屋は全く変わっていなかった。

 唐突に、昔の記憶が蘇る。

 ただいま、と言っても、返事のない家の中は、がらんとしていて、とても寒かった。

 桃坂先輩の家と比べて家が広かった訳じゃない。

 同じような広さの一般的な家だったけど。

 一人の家はとても広く寒々しく感じた。

 あの家は、今も広くて寒いんだろうか。

 このマンションと同じで。


 お風呂の準備をしていたら、スマホがピロリンと小さく鳴った。

 画面を見ると、桃坂先輩からのメッセージだった。


『佐倉元気かー?』

『風呂入ってあったかいうちに早く寝ろよ』

『明日寝坊すんなよ』

 

 さっき別れたばかりだというのに立て続けに入ったメッセージに、思わず笑みがこぼれる。


「先輩、お母さんみたいだよ」

 

 そうメッセージを返すと速攻で返事が返ってきた。


『俺はお母さんじゃない。男だからおとーさんだ』


 お父さん……?

 あんな可愛い顔の桃坂先輩が、どんな顔をしてそんな言葉をスマホに打っているのか想像すると、なんだか無性に可笑しくなって。

 あんなに寒くて広かった部屋が、急に温かくなったような、そんな気がした。



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