ねこの呪い
じゃんけんぽんの嵐のあと、悲壮な面持ちのカラーねこちゃんが誕生しました。
あ? 私?
一番最初に勝ったよ?
黄色だよ?
文句ある?
は~~~~~っと重いため息は出るけど、まあクラスの主力メンバーは進んでメイド役をしてくれるって言ってるし、やだってごねるほど私たち子供じゃないよ。
お祭りなんだし、クラスのほとんどがやるんだし。
別に自分に言い聞かせてるわけじゃないんだからね。
「はーい。じゃあ順番に試着してね~」
えっ!? ここで!? いま!?
ぎょっとしたのは私だけではあるまい。
いやいや里香ちゃん。誰しも心の準備というものが……。
「黄色の一番はこころだっけ。おいで~」
ああ、なんだってこんなときだけは一番に勝っちゃうんだろう。
自分のじゃんけん運のなさを嘆きながら、私はふらふらと立ちあがった。
もともと力仕事担当の男子の仕事はまだなくて、女子しか残っていない教室の中。
窓のカーテンを閉め切り、教室のドアに鍵をかけ、お着替えタイムが始まった。
私と一緒の時間にフロアーを担当するのは、みんなクラスでも可愛い子たちばかり。
ちょっと照れながら教室の端っこでお着替えをする。
互いに背中のファスナーを上げあって、お着替え完了。
後ろを向いて待っていてくれたクラスメイトに声をかけると。
一斉に振り向いたみんなが、目を輝かせたように見えた。
あれ? なんでみんな私に集中してるの?
他に可愛いねこちゃんいますよ?
じりじりじり。みんな怖いよ。包囲しないで。
「あ~、すっごく似合うよ~。ねえねえ。こころってさ、メイクしたら映えそうじゃない?」
試着でしょ。里香ちゃん、盛り上がり過ぎだよ。
「あ、私、アイメイクとグロスなら持ってきてるよ」
さやかちゃん、高校はメイク禁止だよ?
「髪もツインにしちゃう?」
ちょ。中学生になるからヤメテ!
だれ!? カバンからヘアアイロンを出してきたの!
みんな!! なんで私でそんなに盛り上がってるの!?
そこに可愛い黒ねこさんもピンクねこさんもいますよ!!
「わ~。めっちゃ可愛い~。萌える~」
髪を巻かれて結ばれて、顔をいじられて、やっと解放された。
精神的にかなりやられたよ。私。
「ちょっとこれは写真とっとかないと」
「あ、私も私も」
「こっち目線ちょうだい、こころ」
なんでもいいけど、ネットには流さないでね。
そこんとこよろしく。
逆らう気力もなく、私はみんなの言いなり状態だ。
「ここが中にいるって聞いたけど、入っていい?」
みんなが写真撮影に燃える中、教室のドアがノックされた。
理子先輩の声だ。
そっか。今日は一緒に帰ろうって言ってたんだっけ。
ああっ、待って、着替え……。
「女子限定でお入りくださーい」
里香ちゃんが無情にも答え、誰かがドアのカギを外した。
そおっと理子先輩の顔がのぞく。
「!!! ここ!!!」
先輩の目が大きく見開かれたかと思うと、いきなりばーんとドアが全開になった。
「かわいい~~~~~!!!」
ぎょっとする間もなく、走り寄ってきた理子先輩に抱きしめられる。
ドアの向こうに佐藤先輩と桃坂先輩の顔が見えたような気がするけど、気のせいであってほしいと全力で思った。