みんなでねこになろうって聞いてないよ!
文化祭まで一カ月を切り、実行委員の里香ちゃんを中心に放課後の時間を使って準備が始まった。
相変わらず、朝は朧先輩と真理奈先輩に挟まれて登校しています。
ちゃんと説明したにも関わらず、二人とも生温かい目でうんうんうなづくばっかりだった。
なんでそんなにみんな私と桃坂先輩をくっつけたがるんだろう。
ちっちゃいから!?
バランスだけの問題!?
ちなみに私たちのクラスは文化祭で『ねこカフェ』を出店する。
ねこカフェといっても、本物の猫を用意することはできないので、猫の飾り付けをした教室の中を、猫耳をつけた生徒が接客するというものだ。
女子を中心とした、クラスの主力メンバーがきゃいきゃい言いながら、当日着るメイド服もどきを用意したり、猫耳をアレンジしたりしている中、私を含め平平凡凡と毎日を過ごしているメンバーは会場の飾り付けに使う猫の絵や紙のお花を黙々と制作中だ。
言われたことさえ、ちゃんとやっていれば文句も言われないし、こういう立ち位置って結構楽で好き。
時々、自称猫マニアのさっちゃんが「それ猫じゃなくてタヌキだよ~」と突っ込みをいれてくるけど、笑ってごまかす。
けど猫ばっかり描いてると、だんだん何が猫なのか分からなくなってくるんだよね。
今日の夢に猫もどきがいっぱい出てきそうだ。
「うわ~。かわいい~。見て見て~」
実行委員の里香ちゃんの声に、猫と格闘していた私たちは顔を上げた。
あらまあ。これは可愛いわ。
黒いメイド服を着てほんのちょっぴり恥ずかしそうにスカートの裾を引っ張っているのは、このクラスの可愛い代表、さやかちゃん。
これもこれも、と猫耳を渡され装着すると、黒ねこちゃんの誕生だ。
かわいい~。
てか、これ手作りでしょ。
すごいな。女子力。
私はこういうの駄目なんだよね。
料理はまだ大丈夫なんだけど、お裁縫は苦手。
糸が勝手に動き回ってるとしか思えないくらい絡まっちゃうんだよね。
「あとはね~。白ねことピンクねこと水色ねこ、幸せを呼ぶ金のねこは無理だったから黄色ねこです~」
じゃじゃーん。
衣装制作担当の詩織ちゃんが力作をお披露目してくれる。
ほんとすごいよ。
……でも若干カラフルすぎて、メイド服というより、安っぽいアイドルコスプレに見えないこともない。
「フロアー担当の女子は三交代で計十五人でーす。希望者はどうぞー」
……希望者? しかも十五人って。
里香ちゃんの声に、私たち平平凡凡組は顔を見合わせる。
クラスの女子の数は、ちょうど二十人。
って、ええ!? 五人しかあの恰好を免れないってこと!? うそでしょ!?
可愛い恰好は可愛い子担当だと、勝手に考えていた私たちの顔色が一気に悪くなる。
いやちょっと待ってよ。
スカート短すぎじゃないかい?
足を出す自信のある子はいいけどさ。
「はいはーい。早い者勝ちだよー」
みんな着たいって前提で話すのやめてもらえるかな。里香ちゃん。
「……どうすんの?」
私の描いた猫をタヌキだと評したさっちゃんが、引きつった顔でつぶやいた。