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ふたりきりの風景3

 佐倉が何を食べたいか聞くから、カレーと答えたら微妙な顔をした。


「なんだよ。その顔」

「いや。別にいいんですけどね。律子さんたちの分も作っておけるし」

「だから何なんだよ」

「……だって、先輩お昼はオムライスだったんですよ?」

「……」

「いやだから、別にいいんですけどね」


 うるせー。俺の食の趣味に文句を言うな。


 帰り道にあるスーパーに寄って、食材を買って帰る。

 デザートに食べようとアイスクリームをかごに入れたら、また佐倉は変な顔で俺を見ていた。

 一口分けてやるから心配するな。




 家に帰ると、コートとマフラーを外した佐倉は、早速食事の準備に取り掛かった。

 俺も手伝おうとしたら、邪魔だからあっちに行っててくれと言われた。

 なんだよ。ちょっとくらい俺だって役に立つのに。多分。

 それならお手並み拝見と、朝のようにカウンターに座って佐倉を観察することにした。


「お前ってさー、ほんと家事能力半端ないねー」


 佐倉は手際良くお米をかして、玉ねぎを剥いていく。

 玉ねぎをフライパンで炒めながら、人参とジャガイモの皮を剥いていく。

 なんというか、手順に迷いがないし、時間に無駄がない。


「そうですか? 普通ですよ?」


 いや。ふつーの女子高生は、ここまで出来ないだろ?

 もしするとしても、もっと手際が悪いもんじゃない?

 これは毎日食事を作る人レベルだと思う。

 そこまで考えて俺は気が付いた。


「そういやお前って、マンションでは一人暮らし状態だったんだよな」

「そうですよ? 人間必要に迫られれば、大抵のことはできますって」


 そう言いながらも、佐倉の手は休むことはない。


「必要に迫られるって、お前いくつの時から料理してんの?」

「えーと。初めてご飯を炊いたのが幼稚園の頃でしたね」


 何気に尋ねた質問の答えに俺は驚いた。


「幼稚園!? 幼稚園児にご飯って炊けるの!?」


 驚く俺に、佐倉は普通に頷く。


「だってお米をカップで量って水でといだら、あとは炊飯器が炊いてくれますよ?」

「いや俺、したことないから」

「それは律子さんが桃坂先輩を甘やかしてるんです」

「いやいや。……いや? そうなのか?」

「そうですよ」


 自信たっぷりに頷く佐倉に、おかしいのは俺の方なのかと思わず考え込む。


「大体、桃坂先輩はなんにもしなさすぎですよ。洗濯だってしないし、掃除も律子さん任せでしょ?」

「……前に洗濯機に汚れたもの放り込んで洗剤入れたら、泡に殺されそうになった」

「洗剤の入れ過ぎです。ちゃんと入れ物に量が書いてあるでしょ」

「掃除しなくても死なないし」

「それは律子さんが掃除してくれてるからです。ほこりはアレルギーの原因になるんですよ?」

「……はい」

「桃坂先輩、大学では一人暮らしするんですよね? そんなので大丈夫なんですか?」

「うっ」


 冷静に痛いところを突かれた俺は、胸を押さえてカウンターに突っ伏す。

 

「せめて洗濯物くらいは畳むようにしてくださいね?」


 瀕死の俺に、佐倉がとどめを刺した。

 いや。言い訳をするんじゃないけど、母ちゃんが全部してくれるんだよね。

 下手に俺が手を出すと、母ちゃんのリズムが狂うみたいだしさ。

 ほら。大事な息子のために母ちゃんがしたいって言うんだから、黙ってさせてやるのも親孝行かなと。

 あれ。けどなんで佐倉はそんな小さい頃から家事をしてるんだ?

 佐倉の母ちゃんは、何やってたんだろう。

 

「お前の母ちゃんは、幼稚園児に米を炊いてもらわなきゃなんないくらい忙しかったの?」


 何気なくした質問に、佐倉の手が一瞬止まる。


「そうですね。母は産婦人科医ですから、突然のお産に呼び出されることも多くて」

「へー。子供産んでも仕事辞めなかったんだ? すごいね」

「私が幼稚園に入るくらいまではおばあちゃんがいたからよかったんですけど。でも私が四才のときにおばあちゃんが死んでからは大変だったと思いますよ」

「ふーん」

「母は仕事を辞めないって約束で父と結婚したから、子供はいらなかったみたいなんですけど、おばあちゃんが一人だけでいいからどうしても産んでほしいって頼んだんだそうです。産んでさえくれればおばあちゃんが面倒みるからって言って」

「……へー」

「それならってことになって私が生まれて」

「……」

「そんな約束だったのにおばあちゃんが急に死んじゃったから。本当に母は困ったと思います」

「……」

「その時に助けてくれたのがお隣に住んでいた理子先輩のお母さんの都さんなんです。理子先輩と私は同じ幼稚園に通っていて、母が迎えに来れない時は都さんが、理子先輩と一緒に私を家に連れて帰ってくれました」


 自分の母親のことを語っていた時は妙に固かった佐倉の表情が、一之瀬の母親の話になったら一変して柔らかくなったのに、こいつは気付いていない。


「お料理も、洗濯も、掃除も、教えてくれたのは都さんです。一緒にやろうって言ってくれて、理子先輩と本当の姉妹みたいに、色んなことを教わりました」



 


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