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ふたりきりの風景2

 へらへらと笑いながら話しかける男に、困った顔をして何かを言い返す佐倉。

 だけど相手の男は気にする様子もなく、佐倉にまとわりついている。

 あーもー。相手したらだめじゃん。そういう時は無視しなきゃ。

 しょうがない。保護者として放っておけないし、佐倉は俺の連れだし。


 立っていた場所から佐倉の方へ歩いていく。

 あからさまにほっとした顔をした佐倉に、男の視線が俺に向けられる。


「俺の連れになんか用?」


 にっこり笑って言ってやると、やつは何やら言い訳しながら退散していった。

 

「あのさあ佐倉」


 あんまり隙を見せるなと注意してやろうと佐倉に視線を移したら、俺を見上げる顔があまりに不細工で情けなくて。

 ……ほんとしょうがないな。そんな顔されたらきついことは言えないじゃん。

 俺はちょうどいい高さにある佐倉の頭をぽんぽんと軽く叩いて「じゃ、行こっか」と笑って言った。




 佐倉はなんつーか変に人を惹きつけるやつだ。

 顔は平均。というか佐藤を見慣れた俺にとっては中の下くらいのレベル。

 不細工ではないけど、美人でも可愛くもない。加えて愛想もよくない。

 化粧も全くしないし、顔の印象で言えばほんとふつーの子。

 ただその分、ちゃんと化粧をしたら、その化けっぷりは驚くものがある。

 文化祭で驚かされたのは記憶に新しい。


 そんな地味で普通の佐倉だけど、やたら街では男には声をかけられる率が高い。

 俺とか佐藤達とかと歩いてるとそうでもないけど、トイレやら何やらで離れて一人になると結構な確率で声をかけられている。

 あれかな。あんまり綺麗な子は声をかける前から諦めちゃうけど、佐倉くらいの子なら大丈夫かなっていう感じなんだろうか。

 男にとってハードルが低くて、それでいて連れていても恥ずかしいってほどではないレベルの女の子が佐倉なのだ。

 しかもあいつにはどこか話しかけやすい隙がある。

 どう説明していいか分からないけど、とにかく話しかけやすい雰囲気を持っているのだ。

 その証拠に、クリスマスイブの日に一緒にカラオケに行った後輩たちは、揃って佐倉に懐いていた。

 「佐倉さんは全てを受け入れてくれそう」だとか「時折見せる笑顔にギャップ萌っす」とか言って、みんながやたら佐倉の連絡先を知りたがっていた。


 ギャップ萌えと言えば、俺が佐藤と一之瀬をくっつけるために佐倉に声をかけた頃。

 一番最初に遊びに行った場所で、一之瀬だけに見せる甘えたような笑顔と俺に見せる顔があんまりちがって。

 この子、こんな顔するんだなって驚いたような記憶がある。



 

 映画のお約束のポップコーンとドリンクを購入して席を探す。

 俺が取ったのは映画館の後方にあるペアシート。



「え~。ペアシートですかぁ」


 席を見て、佐倉はあからさまに嫌そうな声を上げた。


「俺、映画館はペアシート派だから」

「前に四人で来た時は普通の席でしたよね?」

「だってそのメンバーじゃ一之瀬は佐倉と座るだろ?」

「はあ」

「佐藤がやきもち焼くじゃん」

「……」

「それに俺、男同士で来てもこれだし」

「……佐藤先輩とでも?」

「うん」


 言い訳する訳じゃないけど、別に下心があってペアシートにした訳じゃない。

 ここのペアシートは真ん中に肘かけがない代わりに、他の一人掛けシート二つ分より少し座面が広く作られているのだ。それなのに料金は普通の席とほとんど変わらないお得さ。

 座面が広い分ゆっくりできるし、隣もペアシートだから隣の席の人間がこっち側の肘かけに侵出してくることもあまりない。その分、他人を意識しなくていいから映画に集中できるのだ。

 俺の説明に、佐倉は渋々といった様子で席に着く。


 不満気に席に着いた佐倉だったけど、映画が始まるとあっという間に俺のことなんか忘れて、映画の世界に惹きこまれていった。


 

 


 映画を観終えて、商業施設内のレストランで遅めの昼食を取る。

 それにしても映画中の佐倉は面白かった。

 アクション映画だから、スリリングなシーンやハラハラするシーンがてんこ盛りだったんだけど。

 佐倉ときたら、ちょっとびっくりするような場面では必ずびくっと体が揺れるのだ。

 本人は映画に集中してるから、気が付いてないみたいだったけど、その反応に気が付いた俺は、佐倉がいちいちその反応をするたび、笑いをかみ殺すのに苦労した。

 おかげでいつもよりは集中して映画の世界には浸れなかったけど、面白かったから良しとしよう。


「ちょっと心臓に悪い映画でしたね」


 佐倉がそう言って海鮮丼を口に運ぶ。

 大抵佐倉がこういう所で頼むのって和食だよな。

 ちなみに俺が頼んだのはオムライス。

 お子様って言うな。


「それにしても変な時間になっちゃいましたね。夕ご飯はどうします?」


 それぞれ頼んだものを食べ終えると、三時半という微妙な時間になっていた。


「佐倉は何か見たい店とかある?」


 佐倉が見たいものがあるなら、それで時間を潰せばいいし。

 ないなら一旦帰って、また出てきてもいい。

 

「いや別にないですけど」


 佐倉がそう言うので一旦家に帰ることにする。

 商業施設の外に出ると、小雨は止んでいたが気温がぐんと下がっていた。

 もしかしたら夜には雪が降るかも知れない。


「うわーさみー」


 ぐるぐる首に巻きつけたマフラーを口元まで引っ張り上げてもまだ寒い。

 同じようにマフラーに顔をうずめるようにしている佐倉の手を引いた。

 最近気がついたんだけど。

 手をつなぐだけで、なんでだかあったかく感じるんだよな。


「これは夜に外に出るのはきついな~」


 まだ日が暮れてない時間でこれだ。

 夜はもっと冷え込むはず。

 思わず顔をしかめてそう言うと、佐倉はふと思いついたように顔を上げた。


「じゃあ夜は何か作りましょうか」


 極寒の中でそんなことをさらっと言う佐倉ってマジ神だと思う。

 もちろん俺は速攻で頷いていた。




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