新年早々の爆弾投下です
街をぶらぶらしてから帰ると言う律子さんたちと別れて、桃坂先輩と二人、境内にずらりと並んだ屋台を覗きながら歩いています。
「なんか食う?」
桃坂先輩に聞かれたけど、まだ朝のお雑煮がお腹に残っている。
私がそう言うと。
「あー。俺もまだそこまで腹減ってないかも。じゃあもうちょっとぶらぶらするか」
なんだかんだで結構私に合わせてくれる桃坂先輩。
こういうところは優しいんだよね。
射的に輪投げにヨーヨー釣り。
この一帯はゲームゾーンだな。
ミドリガメ釣りって、カメをどうやって釣るんだろう。
「なに、お前カメ欲しいの?」
あんまり私がじっとミドリガメを見ていたからだろうか。
桃坂先輩にそう尋ねられ、私は首を横に振る。
「いやそういうわけじゃないんですけど」
「ならいいけど。カメは長生きするし、いつまでもこのサイズでいる訳じゃないからな。もし飼おうと思うんなら最後まで飼う決意をしてからじゃないとダメだぞ」
「はあ」
「昔からつるは千年カメは万年っていうだろ。流石にそこまでじゃないだろうけど、カメっていうのは……」
あ、桃坂先輩の動物スイッチが入った。
先輩の動物愛の範囲は哺乳類だけに留まらないようだ。
そこそこ広い境内だから、立ち止まっていても通行の邪魔にはなっていないけど、ミドリガメ釣りのおじさんの迷惑になっちゃうよね。
ミドリガメ釣りの前で、滔々とカメについて話し続ける桃坂先輩を、どう止めようか考えているときだった。
「静流先輩!」
聞き覚えのある声がした。
この声は。
「わあっ。静流先輩に元旦早々会えるなんてラッキー」
「静流せんぱーい。なんか奢ってください~」
「あれ。佐倉さん?」
やっぱりだよ。
声の方を見ると団体で押し寄せてくる男子たちと女子一人。
先日のカラオケのメンバーたちだ。
委員長の顔も見えた。
その隣には目を輝かせてこっちに駆けてくる酒井さん。
ほんと君たち仲いいね。
てか飼い主を見つけた犬みたいだね。
千切れるくらい勢いよく振ったまぼろしの尻尾が見えそうだよ。
「あけましておめでとうございまーす」
近くまで寄って来た彼らは、一斉に頭を下げて新年のあいさつを唱和した。
あれ? みんなの頭が一向に上がってこない。
不思議に思って、中途半端に腰を折ったまま不自然に固まった彼らの視線の先をたどってみると。
……!! なんで私、桃坂先輩と手つないだままなの!?
お参りの時、手は離したよね!?
つないでるのに気が付かないなんて、おかしいよね? 私。
「なんなのお前ら。変な体勢で。新手の芸?」
焦る私と正反対で、のんびりモードの桃坂先輩。
いやいや。手、だよ。先輩!
思わず引っ込めようと手に力を入れた途端、桃坂先輩は繋いだままの手をひょいと上に上げた。
「ああこれ?」
うわ~~~。
桃坂先輩の動きにつられて上がってきたみんなの目がまん丸くなってるよ。
ちょっと先輩!!
てか、いつの間にか指と指が絡んでるし。
これっていわゆる恋人繋ぎとかいうやつですよね!?
さっきまでこんなんじゃなかったですよね!?
みんなびっくりしてるけど、一番びっくりしてるのは私だ。
「し、静流先輩と佐倉さんは仲良しなんですね?」
みんなが石のように固まる中、一人の男の子が引きつった顔で何とかそう言った。
この子カラオケの時、色々面倒見てくれた子だ。
……名前何だっけ?
「うんまあ、付き合ってるからね」
にこやかにさらっと桃坂先輩は後輩たちに爆弾を投下した。
「うぅええええええええええっ!?」
桃坂先輩の攻撃にもれなく激しく衝撃を受ける彼らの中、酒井さんだけは声もなく固まっている。
「ですよね~。お揃いのマフラーなんかしちゃってるし。で、いつからなんですか?」
彼らの中でただ一人、平常運転の委員長がちょっと不服そうな顔で言った。
そういえば何気に巻いてきたんだけど、桃坂先輩が巻いているのは私がプレゼントした黄色いマフラーで、私が巻いているのは桃坂先輩にプレゼントしてもらった、少しピンクがかったオレンジ色のマフラーだ。
同じ店で買った色違いだから、お揃いと言われても仕方ないことに今、気付きました。
クリスマスの日、お互いにプレゼントしようってことになって、真っ先に頭に浮かんだのが雑貨屋さんのウィンドウに飾ってあった、あの黄色いマフラーだった。
二人でお店に行ったら、あれこれと探し回るのが面倒になったらしい桃坂先輩に、お前もこれにしとけよって言われて、色違いを買ってもらうことになったのだ。
あの時は、クリスマスシーズンってこともあって、浮かれてたとしか思えない。
別々の場所で巻いてればそうでもないけど、一緒に歩く機会の多い私たちがこれを巻けば、お揃いマフラーになっちゃうってことに、なぜあの時気が付かなかったのか本当に悔やまれる。
「ちゃんと付き合いだしたのは、こないだのカラオケの後だったよな」
桃坂先輩がそう言った瞬間、固まっていた酒井さんの顔がみるみる青ざめていった。
「カラオケの時って、イブじゃないですか~。え~。イブに告白って王道過ぎませんか~?」
「で、どっちから告白したんですか?」
「あ~。出会うのがもう少し早かったら」
「いやその前にもう一年早く生まれたかったよな」
「激しく同意」
「静流先輩には敵わないよな~」
なんだか全員が口々にそう言うものだから、誰が何を言っているのかよく分からない。
どうでもいいけど、みんなに見せつけるように上げたままの手を下ろしてもいいですか?
てか、いい加減手を離してもらえないでしょうか。




