手つなぎ初詣で
「うわ。すごい人」
元日の神社。参拝する人の行列に思わず目を瞠った。
参拝待ちの行列と、参道の両脇にずらりと並ぶ屋台目当てにそぞろ歩く人たち。
お正月ってこんなに人がいっぱい出歩くものなんだね。
実家ではあんまりお正月に外に出なかったから知らなかったよ。
「そっかー? 毎年こんなもんだろ」
毎年、家族で初詣でに来るらしい桃坂先輩には見慣れた光景らしい。
いつもはお仕事が忙しくて夕飯の席ではなかなか会うことのない、桃坂先輩のお父さんの博文さんも今日は一緒です。
「こころちゃんはここの初詣では初めてだからびっくりするわよね。ほら。静流。こころちゃんが迷子にならないように、ちゃんと手をつないであげるのよ」
そう言う律子さんの手は、博文さんの腕にしっかりと絡んでいる。
いやでも。手をつないであげるって、幼稚園児じゃないんだから。
なのに私を見下ろした桃坂先輩は何かを考える風にちょっと首を傾げた。
なんですか?
まさか律子さんの言ってることを真面目に考えてるとかないですよね?
そんなことを思っていたら桃坂先輩が「そうだな」と言って、すんなりと私の手を握った。
「えぇっ!?」
驚いて思わず手をひっこめようとしたら、顔をしかめられました。
「仕方ねえだろ。お前ちっこすぎるから人混みに埋もれちゃったら見つけられねえんだもん」
「……」
そう言われれば仕方ないような気もするけど、ちっこいのは桃坂先輩も一緒でしょ。
「なんだよ。これでも去年は二センチ伸びたんだぞ」
「えっ。ほんとですか!?」
いいなあ。男子は高校生になってもまだ伸びるんだ。
私なんかもう中学で完全に止まっちゃったもんな。
「先輩って何センチあるんですか?」
「うわ。無邪気な顔してそれ聞く?」
「いいじゃないですか。伸びてるんでしょ」
「いやそれでもそんなにいばれるほどじゃ……」
「まさかの百七十越えとか」
「……そこまではありません」
そっかー。
それでも百五十ちょっとしかない私と比べたら十センチ以上高いのか。
桃坂先輩を単体で見るとその可愛さも相まって小柄に見えるから、なんだかその差が悔しい。
「なに考えてんの? お前」
「いや。どうやったら先輩の身長伸びるのが止まるのかなと思って」
「やめろ。恐ろしいこと考えるなよな」
「いやもう充分でしょ。それ以上背の高い先輩には拒否反応が……」
「なんでだよ。兄ちゃんほどとは言わないけど、俺だって平均身長くらいは欲しいんだから」
兄ちゃん?
そういや桃坂先輩のお家に居候をするって話をしたときに、聞いたような聞かなかったような。
「ああ。お前、兄ちゃん知らないんだっけ」
きょとんとしていると、桃坂先輩が苦笑いをした。
「俺の兄ちゃん、大学でバスケやっててめっちゃ背が高いの」
「雅人さんとかいう人?」
「そうそう」
へえ。どんな人なんだろう。雅人さん。
桃坂先輩の顔に高身長の体をくっつけて想像してみる。
……なんかアンバランス。
「そっかぁ。佐倉は兄ちゃんに会ってないんだよな~」
ぼそっと零れ落ちた桃坂先輩の言葉に首を傾げる。
いつも前向きポジティブ思考の桃坂先輩にしては、歯切れの悪い響きに聞こえたような。
「あ、もしかして私がお部屋を使わせてもらってるから帰ってこれないんじゃ……」
それなら早速マンションに帰ります。
律子さんのこだわったお正月にみんなで過ごすというイベントはとりあえず消化したし、残りの冬休みは一人でゆっくり……。
「んなわけないだろ。あの人超多忙人間だから。毎年バスケやバイトで忙しいって言って、帰ってきても泊まってくことないから大丈夫」
そうですか。それは残念。
そんなことを話していたら、いつの間にか参拝の順番がやってきました。
初詣での参拝って、なにを思えばいいんだろう。
願いごと? 決意表明? 感謝? それとも世界平和?
よく分からないまま、お賽銭を投げいれ手を合わせる。
とりあえず今年はもう少し静かに平穏に、無事毎日を過ごせるよう願っておこう。
参拝を終えて桃坂先輩の方を見ると、まだ先輩は熱心に手を合わせていた。
伏せたまつ毛が長いです。
新年早々、乙女心に打撃を受けた佐倉こころ十六才。
新しい年が始まります。




