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只今反省中です

 はっと我に返ると、桃坂先輩が口をぽかんと開けて私を見ていた。

 わ、私は何をいま……。

 かあああああっと頭に血が昇る。

 ばかって、小学生の悪口だよ。


「え、と。こころちゃん?」


 背後で困り切った高橋くんの声が聞こえた瞬間、私は全力で二人の前から逃亡した。






 信じられない。 

 何がって、自分がだよ。

 桃坂先輩に馬鹿とか大っきらいとか。

 ほんと信じられない。

 あまりにも信じられない自分の行為に、桃坂先輩に感じていた怒りはどこかにすっ飛んでいってしまいました。


 すぐにやってきた電車に飛び乗り、地元の駅からマンションに向かってとぼとぼ歩く。佐倉こころ。猛烈に反省中です。

 

 感情のコントロールは昔から得意な方だった。

 だから感情のままに相手を怒鳴ったことなど、皆無だ。

 親にすら物心ついてからは、あれほど激しく真っ向から感情をぶつけた記憶はない。なのになんでよりによって桃坂先輩に感情をぶつけてしまったんだろう。

 自己嫌悪の塊だ。

 どんな顔をして桃坂先輩に会えばいいのか分からない。

 

 律子さんには、大掃除がキリがつかないから今日はマンションに泊まると電話した。

 そのままマンションの自分の部屋に籠り、ベッドの上で膝を抱えて丸まる。


 なんであんなに感情的になっちゃったのか。

 分かりたくないけど、分かってしまった。

 私を強引に連れて行きながら私を放置して他の女の子と仲良くしていた桃坂先輩に、まるで彼氏のように高橋くんといることを責められたことが許せなかったのだ。

 いつも私がいるはずの場所にこれ見よがしに居座る彼女と、それを許す桃坂先輩が許せなかった。

 これはつまりわたしは……。


 はあああああああ……。

 深い深いため息をついて、私はベッドの上に膝を抱えたままごろんと転がる。


 気づいてなかった訳じゃない。

 桃坂先輩に声をかけられたあの日から、どんどん桃坂先輩は私の中で大きくなっていき。

 好きになるのを止めることなんか、できる訳なかった。

 だけど好きになればなるほど、あの時の恐怖が蘇る。

 もし桃坂先輩が麻友に会ったら、桃坂先輩は麻友のことをどう思うんだろう。

 あの夏の図書館で、高橋くんと仲良く話をしていた麻友の笑顔が、脳裏から離れない。


 好きになんかなりたくなかった。

 ただの一緒にいて楽しい先輩だったら、桃坂先輩が誰を好きになろうが構わない。

 好きだって、認めたくなかったのに。


 ぐううううううう。

 

 おなか減った。

 いつの間にか眠っていたのか、目を開けると外は暗くなっていた。

 そういやお昼も食べてない。

 時間を確認しようとして、スマホが振動しているのに気がついた。


 桃坂先輩。


 だめだ。出れない。

 しばらく放置しておくと、スマホは振動を止めた。

 ほっと一息ついて画面を見た私は、着信履歴を見て固まった。

 画面を埋め尽くす勢いで羅列された桃坂先輩の名前。

 呆然としていたら、またスマホが振動しだした。

 なんという忍耐力。

 さすがに放置し続けることはできなくて、そっと画面にタッチした。


「……はい」

『佐倉? 寝てた?』

「はい」

『下にいるから、下りてきて』

「……え?」


 ぷつりと通話が切れる。

 無音のスマホを手に、私は途方に暮れた。



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