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再会

「あの……。もしかしてこころちゃん?」


 控えめに声をかけられたのは、雑貨屋さんの前で棒立ちになっている時だった。

 驚いて振り返った視線の先に、思いがけない人が立っていた。

 ひょろりと細い体。眼鏡の奥の優しい瞳。

 季節は夏から冬に変わっていたけど、優しい笑みは全然変わらない。


「高橋くん……」


 そこに立っていたのは、去年の夏、図書館で仲良くなったY高の高橋くんだった。




「久しぶり。良かった元気そうで」


 あの時と全然変わらない控えめな笑みを浮かべて高橋くんがそう言った。

 なんと返事をしていいのか分からず、私は戸惑う。

 だってあの時私は何も言わずに高橋くんの前から姿を消したのだから。


「急に図書館に来なくなっちゃったから、何かあったんじゃないかって心配したんだ。Y高にも来なかったし」

「す、すみません」

「ううん。責めてるわけじゃないから。ただ僕が勝手に心配してただけ」


 小さくなって謝る私に、高橋くんはにこにこ笑いかける。


「時間ある? 少し話できるかな?」


 いつもの私だったら即、断っていただろう。

 高橋くんは麻友と接点があるのだ。

 お話どころか、多分声をかけられていた時点で人違いだと言い張ったはずだ。

 だけど今の私は。

 なぜだか無性に心が寒くて冷たくて。

 なぜだか高橋くんの優しい笑顔が無性に温かくて。

 高橋くんのお誘いにうんと頷いていたのだった。






「Y高に入ってきた、こころちゃんと同じ中学の子たちに、こころちゃんのこと聞いたんだけど、誰もどうしてるか知らなかった。ってことは僕の前から姿を消したのも、こころちゃんの意思なんだよね?」


 ファーストフード店で飲み物を買って、カウンターに並んで腰かけた。

 そうやって並んで座ると、季節が戻ったように感じる。


「うん。ごめんなさい」


 私が謝ると高橋くんは困ったように笑った。


「本当に心配したんだよ? 毎日会ってた子が、急に会えなくなっちゃって淋しかったし」

「……」

「原因は桜木麻友さん?」


 やっぱり。

 麻友は高橋くんに接触してた。

 私の胸に後悔が押し寄せる。

 なぜ他人の振りをしなかったんだろう。

 また私は麻友から逃げなくてはならないんだろうか。


「そんな悲愴な顔しないで。確かに桜木さんはY高の後輩になるけど、桜木さんと僕は個人的なつながりはないから」

「でも図書館で麻友は高橋くんと話をしてたよね?」

「やっぱり。あれが原因だったんだ」

「……」

「こころちゃんが図書館に来なくなって、色々原因を考えたんだ。あの日、いつもとちがうことがあったとしたら、こころちゃんと同じ中学の女の子に話しかけられたということだけ。だからもしかしてと思ってた」


 あの時の光景が脳裡に浮かぶ。

 と同時にあの時の絶望も胸に蘇る。


「あれから何度か桜木さんは図書館に現れたけど、こころちゃんが来ていないのが分かると来なくなった。Y高に入学したあとも一度僕を訪ねてきたよ。その時もこころちゃんのことばかり話してたな。結局僕がこころちゃんのことを何も知らないと分かったら、もう現れなくなったけど」

「……麻友に、私とここで会ったこと、話すんですか?」


 冷静に冷静に、と心の中で念じているのに、コーヒーのカップを持つ両手が震えるのを止められなかった。


「いや。話す義理も、話す必要もないから。だから安心して?」


 そっと高橋くんが私の震える手に触れた。

 見上げる高橋くんの目は、あの夏と同じ、優しい色をしていた。

 だからなんだろうか。

 私はいつの間にか麻友のことを話していた。

 麻友と出会った小四のときから、違和感を感じ続けた中学時代のことを。

 

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