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巻き込まれました

「えーめんどくさいーまだねむいしー」


 ぶつぶつ言う桃坂先輩に、断るなら自分で断ってくださいと、とにかく下へ行くようにベッドから追い立てる。

 するとようやく観念したのか、パジャマ姿のまま桃坂先輩はのそのそと部屋を出ていった。

 桃坂先輩に続いて階下に下りると、お客さんたちはリビングに移動していた。


「あー!! 静流先輩!! まだパジャマー!?」

「やっぱり迎えに来て大正解でしたねー」

「私たちの大事な約束、忘れてたなんて言わせませんからね!」


 口々にそう言って彼らは一斉に桃坂先輩に群がった。


 そうか。この子たち、桃坂先輩の中学時代の後輩か。

 委員長もいるということは、多分バスケ部関係だな。

 パジャマ姿でぼさぼさの頭をぽりぽり掻いている桃坂先輩と、テンションマックスの後輩くんたち。

 温度差が半端ない。

 台所をのぞくと律子さんが大量のお菓子とジュースを用意していたので手伝う。

 これを運び終わったらさっさとここを脱出しよう。


 リビングではソファーにだらりと座る桃坂先輩を囲んで、後輩たちが口々になにやら言っている。

 どうやら遊びに行きたくないらしい桃坂先輩を一生懸命説得しているようだ。

 中でも熱心なのは、私を睨みつけるような目で見ていたショートカットの女の子だった。

 桃坂先輩の腕に両腕を回し、ぺったりくっついてなにやら盛んに言い続けている。

 完全に胸が当たってるよね。

 見てる方が恥ずかしくて、思わず目を逸らせてしまった。



 よし。最初の計画通りにはいかなかったけど、幸い桃坂先輩はまだパジャマ姿。

 しかも引き留めてくれる後輩たちがいる。

 脱出、いや外出を決行する時だ。

 ああでもその前に。

 部屋の隅で何か言いたげに私を見ている委員長とばっちり目が合った。

 そうだよね。一応一言言っておかないとダメだよね。


「委員長、おはよう」

「おはよう。佐倉さん」

「ええっとね、なんで私がここにいるか、凄く気になってるよね?」

「うん。桃坂先輩とは、まだ付き合ってないんだと思ってたから。何か進展合ったのかなあって」


 進展って、何の進展だよ。


「ちがうよ。私の叔母と桃坂先輩のお母さんが偶然知り合いで、色々事情があって冬休みはこのお家で過ごすことになっちゃったんだよ」

「そうなんだ……」

「ほんとだよ。信じてよ委員長」


 唯一、私と桃坂先輩が付き合っているという噂が嘘だと言ってくれる委員長に疑われたら、私のメンタルぼろぼろだよ。


「信じるよ。だから半泣きにならないで佐倉さん」

 

 そうは言っても委員長、顔が引きつってるんだもん。必死になっちゃうよ。

 とにかく委員長に念押しはしたし、これ以上私がここに残る必要はない。

 そう思ってリビングを出ようとした時だった。


「じゃーさー。佐倉も一緒に行くならいいよー」


 桃坂先輩の間延びした声に、リビング中の視線が一斉に私に突き刺さる。

 あちゃー、と委員長が私の隣で小さくつぶやくのが聞こえた。




 

「巻き込んじゃったみたいになって、ほんとごめんね」


 ぞろぞろと縦に連なって歩く十数人の最後尾。

 私の隣を歩く委員長が眉を下げて申し訳なさそうに謝った。

 いえいえ。委員長が謝ることではありませんから。

 全然怒ってませんよ。委員長には。


「みんなバスケ部の後輩なんだよね?」


 私が尋ねると、委員長は頷いた。


「静流先輩の代の先輩たちってさ、みんなで集まって騒ぐのが大好きな人たちで、僕たち後輩も混じってよく遊んでもらってたんだ。けどだんだんそれも少なくなってきて。僕たちの一個下の子たちが中心になって、一年に一回だけでいいからって、先輩たちと遊ぶ約束をしてもらったんだよね」

「今日って、クリスマスイブだよね?」

「うんそう。だから静流先輩以外の先輩たちはデートや用事で全滅」

「そりゃそうなるよね」


 僕は学校で毎日振り回されてるからもういいんだけどね、と委員長は苦笑いを浮かべた。

 そうなんだ。委員長も桃坂先輩には苦労してるんだね。

 私は、一番先頭をショートカットの女の子と腕を組んで歩く桃坂先輩に視線を移す。

 その目が穏やかでないのに気が付いたのか、委員長の眉が一層下がった。


「あのね、夏輝、あの子は酒井夏輝っていうバスケの女子マネの子なんだけど、昔から静流先輩に憧れてて、でも静流先輩は……」

「別にいいよなんでも。とりあえず私が行かなきゃ行かないって桃坂先輩が駄々をこねるから付いてきてるだけなんだし仲良しになるつもりもないし」

「あー……」

「別に委員長やバスケ部の子や女子マネの酒井さんに怒ってるわけじゃないから」

「うー……」

「仲良しの会に入れてもらおうとか全然思ってないし」

「……」

「だから全然気にしないで委員長」

「……うん」


 気にしなきゃいけない人は、委員長じゃありませんから。



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