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ある昼休みの光景3

 昼休み、教室に入ろうとしたら、ちょうど教室から出てくる静流先輩にばったり会った。

 

「あれ先輩。もう帰ってたんですか?」


 二年生は修学旅行に行っていたはずだ。


「お、ちょうど良かった。島田、顔貸せよ」


 え~。もう昼休み終わるんですけど~。

 嫌な顔をしたのに、見ないふりされて、僕は静流先輩に引きずられていった。




 廊下の隅、なんで男二人でこそこそしてるんだろう。


「で、俺の留守中どんな感じだった?」


 ああ、そういうことか。

 ってことは、やっぱりそういうことなんだろうか。

 ちらりと頭に浮かんだ疑問を置いておいて、まずは報告からだ。


「特に問題はなかったですよ? 三年の女子が絡んでくることもなかったし。あ、でもちらほら三年の男子に話しかけられてたかな。結構文化祭のコスプレが人気だったみたいで」

「あー。やっぱり? 誰だよ。あんな衣装考えたの。それに化粧もしないっつってたけど、軽くしてたよな」

「……そこのところは実行委員の女子の力が」


 むうっと眉をしかめた静流先輩に、なぜか言い訳をする僕。

 いやなんで言い訳しなきゃなんないんだろう。


「あの、聞いてもいいですか? 静流先輩、佐倉さんと付き合って……」

「ないよ」

「……」

「ずーっと言ってるだろ。つき合ってないって」

「でもならなんで」

「なにが?」


 ……この人、無自覚なのか?

 

「えーと。付き合ってないなら、別に佐倉さんに話しかける男子がいても、問題ないんじゃないですか? 佐倉さんだって、彼氏が欲しいかも知れないし」

「えー。佐倉に彼氏? 生意気」

「……」


 いや。先輩?


「それにさ、あいつ、あんな無愛想なくせに、押しに弱いって知ってる?」


 は?


「嫌だとか無理だとか、素っ気なく断るくせに、お構いなしに押し続けると結局言うこと聞くんだから。ほっといたらあいつ、好きでもない奴から無理やり迫られて、付き合っちゃいそうじゃん」


 そうやって静流先輩は佐倉さんに言うことを聞かせてたんですね。


「それって結局先輩が佐倉さんのことを好きだってことなんじゃないですか?」


 ずばり、そう尋ねると、静流先輩は頭を微かに傾けた。

 ほんとにこの人、女子以上に可愛いな。


「好きだよ」

「!」


 やっぱりそうなのか!


「嫌いな奴とは一緒にいたいと思わないし。あいつ構ってるとなんか面白いし。知ってる? あいつの最近のマイブームがシール集めだって。小学生かっての。この間もどこかに大事なシールを落としたって大騒ぎしてたし」

「……?」


 あれ? なんかちょっと微妙に何かがちがうような……。


「なんつーか。佐倉は見てて飽きないのなー」

「……」


 なんだかどんどん佐倉さんが不憫に思えてくるのは気のせいだろうか。

 好きだけど恋じゃない。恋じゃないけど誰にも渡したくないっていう。

 でも独占欲って、結局恋なんじゃないんだろうか。

 悶々と自問自答する僕に、桃坂先輩は何の悩みもなさそうな笑顔を向ける。


「ま、そんなとこだ。報告さんきゅーな。あ、これ、修学旅行のお土産」


 ごそごそとポケットを漁り、はい、と手に乗せられたのは、黒砂糖の飴一個。



 静流先輩と別れて教室に入った僕は、クラスのみんなに囲まれてやいやい言われて困っている佐倉さんの手の中の綺麗なびいどろを見て思った。


 無自覚にしても差、ありすぎだろ。

 ほんのすこしヤケになって、僕は飴を口に放り込んだ。

 

 



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