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ある昼休みの光景2

「たっだいま~。元気にしてたか~?」


 昼休みの教室。

 元気いっぱいの桃坂先輩の声が響き渡った。

 昨日の夜遅くに帰ってきたらしい二年生は、今日は午後登校でいいらしい。

 朝は静かだったから、うっかり忘れてたよ。

 いつもの調子でゆっくりおしゃべりしながらお弁当を食べていた私の近くに来た先輩は、大事に残しておいた唐揚げを一つ勝手につまみ食いした。


「佐倉の顔を見ると帰ってきた~って感じするな~」


 ご機嫌で言うけれど、唐揚げの恨みは大きいぞ。

 これ以上おかずを奪われては悲しすぎるので急いでお弁当をお腹の中に収納する。


「それは頬張り過ぎだろ。お前はりすか」


 むぐむぐ。誰のせいだと思ってるんですか。

 その間に卵焼きが一個犠牲になった。


「なにしに来たんですか。まさかお弁当を奪いに……」


 これ以上奪われてなるものかと、片手でお弁当を囲いながら尋ねると、桃坂先輩は大きな口を開けて笑った。


「まさか~。俺ちゃんと昼飯食ってきたもん」


 じゃあ私のおかずを返せ。


「じゃなくてさ、これ」


 はい、と桃坂先輩が私の机の上に四角い箱を置いた。


「なんですかこれ」


 まさかビックリ箱とか、時限爆弾じゃないよね。


「なんですかって、俺修学旅行に行ってたんだよ? お土産に決まってんじゃん」

「お土産!?」


 それはビックリ箱よりビックリしたよ。

 まさか桃坂先輩がお土産を買ってきてくれるとは思ってもみなかった。


「開けてみ」


 そう言われて包みを剥がす。

 箱の中から出てきたのは、長崎びいどろ、ぽっぺんだった。

 意外にもまともなお土産に目を瞬く。

 これはどういう反応を返すべきものなんだろうか。


「この色綺麗だろ? なんかこれ見た時、佐倉の顔が浮かんだんだ」

「……」


 なんなんだ。この状況。

 生温かく微笑む周りのみんなの視線が怖い。

 もっと変な置物とか、これどうしろって言うのっていう物をもらった方が気が楽なんだけど。

 にこにこにこ。上機嫌の桃坂先輩と、手の中にあるガラスのおもちゃの間で視線が彷徨う。

 えーと。なんて返そう。とりあえずお礼か?

 でもその前に。


「桃坂先輩、旅行先で変なもの食べませんでした?」


 つい口をついて出てしまった質問に、桃坂先輩が一瞬きょとんとした顔をした。

 うわ。その顔、可愛いかも。

 次の瞬間。


「はぁああっ!?」




 お礼を言う前に、頭から湯気が出そうな勢いで桃坂先輩は教室を出ていってしまった。

 やっぱり先にお礼を言っておくべきだったかなあ。

 でも、どうしても聞きたかったんだ。

 私にまともなお土産を買ってくるなんて、絶対、修学旅行で変なもの食べたか変なもの見て、先輩の思考回路がおかしくなっていたに違いないんだから。


 手の中にある、お土産にもう一度視線を落とす。

 そっと触れると冷たいガラスのはずなのに、黄色っぽいオレンジ色の模様がついたそれは、なぜかあったかいような、そんな気がした。



 

 

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