祭りのあとは淋しいものなのです
投票の結果が出ました。
当然、今年のベストパートナーは佐藤先輩と理子先輩です。
当たり前だよね。
なぜか私と桃坂先輩が特別賞という訳の分からない賞をもらったけど、全力で辞退したいと思います。
「あ、佐倉。お前らも今日は打ち上げあるの?」
ベスパコンのあと、文化祭の閉会式を終え、体育館を出る人の波に乗って歩いていると、どこからともなく桃坂先輩が現れた。
「はい。律子さんにもそう伝えてあります」
これからクラスで集まってカラオケで打ち上げだ。
時間的に見てそこで何か食べることになるだろうから、律子さんには夕飯はいらないと伝えてある。
というか、文化祭も終わったし、桃坂先輩のお家でご飯を食べるのは、昨日で最後だったんだな。
ふわりと温かい律子さんの笑顔を思い出して、胸の奥がきゅんとなった。
ああ嫌だ。私、色々感傷的になってるよ。
「そっか。俺らも今日は打ち上げだから。気をつけて帰れよ?」
「……桃坂先輩、その恰好で打ち上げ行くんですか?」
私が尋ねると桃坂先輩は満面の笑みを浮かべた。
「もちろんじゃん。俺がどれだけの時間と労力をかけて変身したと思ってんだ?」
意外と気に入ってるんですね。
確かに可愛いですけど。
「じゃあ先輩こそ、夜道には気を付けてくださいね」
「それウケる」
「いや結構マジで言ってますから」
「はいはい分かりました」
そんなたわいもないことを話しながら体育館を出る。
まっすぐ行けば一年教室棟。二年教室棟は右だ。
「じゃあまたな」
肩まであるつややかな巻き髪かつら。大きな目を縁取る長いまつ毛。ピンク色の頬。
どこをどう見ても超可愛い女子高生姿なのに。
なぜか私にはいつもの桃坂先輩の笑った顔が見えたような気がした。
「ありがとうございました」
桃坂先輩にはたくさんのものをもらった。
それを思い出と一言で片づけてしまえば簡単なのだけど。
キラキラした帰らない日々と、これから続くであろう平穏な日常。
淋しさと、喪失感と、ほんの少しの安ど感の中で。
万感の思いでぺこりと頭を下げる。
文化祭は終わった。
そして桃坂先輩たちとの日々も終わろうとしている。
「変なヤツ」
くしゃりと笑った桃坂先輩の手が、一瞬、私の頭を撫でていった。
きっと私は一生、この手の大きさを、温かさを、忘れない。
しばらくの間、私は頭を上げることが出来なかった。
お祭りは、終わったのだ。




