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告白の行方と友情のハグ

「それでは最後のカップルの登場です。どうぞ~」


 真鍋先輩の声を合図に舞台に現れたのは、想像通り佐藤先輩と理子先輩だった。

 爽やかな笑顔を浮かべている佐藤先輩と対照的に、理子先輩の顔は引きつっている。


「本日のスペシャルシークレットカップルの、二年一組の佐藤文哉くんと一之瀬理子さんのカップルです~。どうぞ真ん中へ」


 あー、理子先輩大丈夫かな。

 完全に顔が戸惑ってるよ。

 佐藤先輩は何をしでかすつもりなんだろう。

 下手なことをすれば、理子先輩の戸惑いは怒りに変わるって分かってるよね?

 私の心配をよそに、佐藤先輩は涼しい顔で真鍋先輩からマイクを受け取って会場をぐるりと見渡した。


「実は僕は謝らなくてはならないことがあります。僕は一之瀬さんにベスパコンに一緒に出てほしいとは一言も言っていません。一之瀬さんはここにいる後輩の佐倉さんと一緒に出ると思って、この会場に来ていたんです。だましちゃってごめんね。一之瀬さん」

「え、あ、うん」

「佐倉さんもごめん。本当は女装した桃坂が僕と出るはずだったんだ」


 そうだったんですね。


「でも、僕はどうしてもこの機会を逃したくなかった。逃げも隠れも出来ない状態に追い込まれなければどうしようもできない、そんな弱い僕だから」


 そう言って佐藤先輩は突然、理子先輩の足元に跪いた。

 うわ。反則でしょそれ。

 きらきら輝く瞳を、まっすぐ理子先輩に向けて、片手を差し出す様はリアル王子さまだ。

 突如出現したリアル王子様に、会場全体がうねるようなどよめきに包まれる。


「一之瀬理子さん。こんな情けない僕ですが全力であなたのことを大事にします。どうか僕とつき合ってください」


 言ったよ。

 言っちゃったよ。

 逃げも隠れもできない大観衆の前で。

 会場中は阿鼻叫喚に包まれている。

 叫び声の主は佐藤先輩の信奉者たちだ。

 だけど、舞台の上にいる二人に、誰一人手出しを出来るものはいない。


 理子先輩は真剣なまなざしで佐藤先輩をじっと見つめていた。

 理子先輩は何て返事をするつもりなんだろう。

 この半年間、佐藤先輩を近くで見てきた私は複雑な心境だ。

 佐藤先輩の理子先輩を想う気持ちは、本当に純粋で、これまで遠くで見ていた佐藤先輩のイメージとは全く正反対で。私には驚くことばっかりだった。

 理子先輩大好きの私が、ほんのちょっぴり応援したい気持ちになるほど、佐藤先輩は理子先輩のことを一途に想っていると思う。

 それだけ異性から想われるということは、単純に考えれば幸せなんだろうけれど。

 その相手が佐藤先輩だとすれば、どう考えても普通のカップルのように、平穏に過ごすのは無理だろう。

 それは理子先輩にとって幸せなんだろうか。

 素敵な彼氏ができたねと、単純に喜べるものではない。

 だから。だけど。

 答えの出ない自問自答を繰り返しながら、知らず知らずのうちに胸の前で組んだ両手に力が入っていた。


 見上げる佐藤先輩と、それを見つめる理子先輩。

 いつの間にか場内はしんと静まり返り、舞台の二人を固唾をのんで見守っている。

 ピンと張りつめた空気を破るような、理子先輩の大きく息を吸う音がはっきりと聞こえた。

 答えは。


「はい」


 囁くような声だったけど、確かに理子先輩はそう言った。


 一番最初に反応したのは桃坂先輩だった。

 

「うわぁ!! やったぁ!!」


 私の隣でそう叫んだと思ったら、私の胸の前で組んだ両手をとって、ぴょんぴょん飛び跳ねだした。

 ちょっと待って。

 私まではしゃいでるみたいじゃないですか。

 どうして私まで巻き込むんですか!?

 恥ずかしいから手を離してください!!

 はーなーせー!!


 桃坂先輩の喜びにつられたのか、会場からも二人を冷やかすような歓声が沸く。

 悲嘆の叫びも混じっていたような気がするけど、飛び跳ねながら抱きついてきそうな桃坂先輩の勢いに、私はそれどころではない。

 先輩っ。うれしいのは分かるけど、ここ舞台の上だよっ。冷静になって!


「静流」


 佐藤先輩の声に、やっと桃坂先輩の動きが止まった。

 振り回されたおかげでまだ視界がぐらぐら揺れているみたいだ。

 よれよれになって、佐藤先輩たちの方を見る。

 理子先輩の片手をそっと握り、微笑む佐藤先輩の幸せに溢れた蕩けそうな顔。

 

「ありがとう静流。佐倉さんも」


 佐藤先輩の声を聞いた途端、桃坂先輩は佐藤先輩めがけて走りだした。私の手を掴んだまま。

 ちょっと~~~っ!?

 

 佐藤先輩に抱きつく桃坂先輩。

 それを呆然と見守る、理子先輩と私。

 先輩、女装してること忘れてるでしょ。


 舞台の中央でイケメンに抱きつく美少女を、呆然と見つめる理子先輩と私。

 

 その様子は、後日配られたM高新聞の一面に、大きく掲載されたのだった。

 

 



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