やっぱりこうなるんですね
「それでは一組目のカップルです~。三年三組の信楽辰則くんと三年三組斎藤恵美さんどうぞ~」
時間通りにベスパコンが始まった。
私と理子先輩以外はちゃんとした男女のカップルです。
そう言えば桃坂先輩のパートナーはどこにいるんだろう。
結局、新しい出場者の発表もされてなかったし。
きょろきょろとあたりを見回しても、それらしき人がいる様子はない。
「桃坂先輩、一体誰と出るんですか?」
そろそろ教えてくれてもいいんじゃないんだろうか。
隣に立っている桃坂先輩を見上げる。
「えーもうすぐ分かるからいいじゃん」
どうやら桃坂先輩は最後までパートナーの正体を明かす気はないらしい。
次々と待っていたカップルが呼ばれ、舞台の袖には私と理子先輩、桃坂先輩の三人だけが残された。
桃坂先輩、まさか一人で出るつもりじゃないよね。
「次は~、一年一組佐倉こころさんと二年一組一之瀬理子さんのカップルです~」
あ、呼ばれた。
と思って理子先輩の顔を見る。
なのになぜか理子先輩が遠ざかっていく???
え~~~~~~っ!?
どうして桃坂先輩が私の腕を引っ張って舞台に上がっていこうとしてるんですか!?
抵抗する間もなく、私は薄暗い舞台袖から明るい舞台上へと引っ張りだされていた。
引きずられるようにして桃坂先輩と舞台に上がると、司会をしていた真鍋先輩がきょとんと首を傾げた。会場にもあれ?という空気が広がる。
そりゃそうだ。
私の隣にいる人は、理子先輩ではない、謎の女子高生なのだから。
「ちょ~っと待った~!! 佐倉のパートナーは一之瀬じゃなくて、桃坂だよ~!!」
ざわつく空気を破る様に、桃坂先輩が片手を上げて元気よく宣言した途端、会場中がどっと沸いた。
えーうそーまじーなんでーかわいいー。そんな言葉が会場中を駆け巡る。
そりゃみんなびっくりするよね。
肩まであるかつらをかぶり、綺麗にメイクした桃坂先輩は、完全に女子高生と化している。
「あれ~? 桃坂く~ん。一緒に出るパートナーを間違ってないかい?」
真鍋先輩は全然動揺してないみたいだから、桃坂先輩が女装するのは知ってたってことなのかな?
「それがね~、私のパートナーがどうしても他の人と一緒に出たいって、ごねちゃって~。めそめそ鬱陶しいからパートナーチェンジしてやったのよ」
桃坂先輩、そのしゃべり方、気持ち悪いです。
でも黙ってにこにこしていると、怖いくらい可愛い。
マスカラ効果で、より長くなってるまつげとか。
ふんわり桜色のほっぺとか。
ぷるぷる潤ったくちびるとか。
通常レベルの女子の自尊心を完全破壊するつもりですか。するつもりですね。
スカートの下から覗く足が、若干ごつごつしてるけど、顔が可愛すぎて全然気になりません。
「そうですか~。ではアピールタイムです。お互いのパートナーの良い点を一つづつ、言ってください」
真鍋先輩、スルーですか。対応力半端ないですね。
いやちょっと待て。
じゃあ私のパートナーが桃坂先輩ってことなの!?
お互いの良い点って、理子先輩じゃなくて桃坂先輩のことを言わなくちゃ駄目ってことだよね?
そんなの考えてないよ~!!
突然頭の中がパニック状態で真っ白になる。
「はい。マイクをどうぞ」
何を言えばいいのかテンパっていると、真鍋先輩に渡されたマイクを構えながら、桃坂先輩が私の顔をちらりと見た。
「えーっとねぇ。佐倉ちゃんのいいところは~、見ての通り感情がダダ漏れなところでーす」
は?
「ほらほら。むかっとした。わっかりやすいでしょー」
「成程。確かにそうですねー」
「本人は大人ぶって感情を出してないつもりなんだろうけど、ぜんっぜん出来てないの。そこがまた可愛いんだけどねー」
「成程成程。なにかエピソードがあれば」
「エピソードねぇ。そうだ。夏休みに一緒に遊園地に行ったとき。誘った時は死ぬほど嫌そうな顔をしてたんだけど、いざ遊園地へ行ったら滅茶苦茶楽しそうで一番はしゃいでたんじゃないかな」
ふ、ふふ。好き勝手なことを言ってますね。
というか、遊園地に誘われた時、死ぬほど嫌がってたこと、分かってたんですね。
「つまり一番良い点は素直なところという訳ですね」
「よく言えばねー」
「分かりました。では佐倉さん。桃坂くんの良いところを一つ、お願いします」
ひょいと渡されたマイクを睨みつけながら、何を言おうか頭をフル回転させる。
一言でダメージを喰らわせるのに最適な言葉は。
「……女装が半端なく似合うところ」
「ちょっ! お前! それは言っちゃだめなことだろ!?」
会場中が大爆笑の渦に包まれた。




