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ベスパコン開幕

「みんな! 準備はいいかい!? ベスパコンが始まるよー!」


 舞台の上の真鍋先輩は片腕を突き上げ、異様なテンションで叫んだ。

 会場のみんなもそれにつられたのか、大歓声でそれに答える。

 

 ベスパコンってこんなに盛り上がるものだったんだね。

 ちょっと甘く見てました。


 決められた時間に集合場所に行くと、すでにベスパコン出場者は集まっていた。

 その中に理子先輩の姿を見つけて駆け寄る。

 理子先輩を見つけると駆け寄ってしまうのは、私の習性としか言いようがない。

 そういえば石川先輩もいるかも知れないのだと気が付いて、慌ててそこにいる人たちの顔を見渡したけれど、知らない男女のカップルが三組いるだけだった。

 石川先輩だけじゃなくて桃坂先輩もいない。

 まさか逃げたとか?

 いやいや。

 まさかね。


「理子先輩。石川先輩は来ないんですか?」


 そう理子先輩に尋ねると。


「芳野? あの子はベスパコンには出ないわよ」


 そう言われてしまった。

 あれ? そうなの? じゃあ桃坂先輩は誰と出るんだろう。


「芳野のこと、今日は本当にごめんね」


 首を傾げていると、理子先輩がそんなことを言いだした。

 いえいえ。理子先輩のせいじゃありませんから。


「ここから合唱部に入りたいって言ってこない限り、ここに合唱の話はしないって約束させたのに。喫茶でも体育館でもあんな強引なやり方するなんて」


 あれ? 理子先輩。珍しく本気で怒ってます?

 いつもは温和に凪いでいる瞳の奥に、怒りの炎が見えるようです。

 

「大事なここを傷つけるなら、もう芳野のバックアップなんてしないって宣言したから」

「えっと、理子先輩? それはどういう意味ですか?」


 私が恐る恐る尋ねると、理子先輩はとってもいい笑顔を返してくれた。


「それはね、私が合唱部をやめるということよ」


 ずっと小さい頃から地元の合唱団を経て、中学高校と続けてきた合唱は、理子先輩にとってそんなに軽い存在ではないはずだ。


「ダメですよ。そんなこと軽く言っちゃ」

「あら。ここは自分の存在が合唱部よりも軽いとでも言うつもり?」

「でも」

「歌なんて、どこでも歌える。けどここは私にとってはただ一人のかけがえのない存在だもの」


 きっぱりと言い切って清々しく笑う理子先輩が、王子様に見えます。

 自分というものをしっかりと持っていて、何があっても揺るがない態度。

 私のように、周りからどう思われるかどう言われるか気にして、オロオロなんてしない。

 そんな理子先輩が、どうしよう、大好きだ。


「理子先輩」


 思わず人目があるのを忘れて、理子先輩にぎゅうっと抱きついていた。

 いつまでも理子先輩に甘えていてはいけない。

 依存すれば依存するほど、理子先輩と私の間にある一年という月日が、私に重く圧し掛かるということを、私は去年嫌というほど思い知ったはずだ。

 だけど。

 

「ここ。大丈夫だから」


 そう言って優しく髪を撫でてくれる、理子先輩の柔らかい手の感触だけを感じたい。 

 今だけは。



「なーに女子同士で二人だけの世界作ってんだよ」


 背後からぶっきらぼうな桃坂先輩の声がした。

 うるさい。何とでも言って。

 今日一日で私が受けたダメージの大きさは、理子先輩でしか癒せない。

 絶対離れないと腕に力を込めたのに。


「え? 桃坂くん? どしたの? それ」


 理子先輩の驚いた声に、思わず後ろを振り返ってしまった。


「…………ぇえっ!?」


 そこに立っているのはどこからどう見ても超可愛らしい女子高生だった。

 

「先輩、髪の毛」

「かつら」

「化粧」

「すげーだろ。マスカラだぜ」

「制服」

「友達のねーちゃんに借りた」

「可愛すぎです」

「とーぜんだろ」

「……」


 

 桃坂先輩、いつの間に性別を変えたんですか?




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