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心安らかな時間は短いものなのです

 あー、疲れたよ。

 気がつけば時間はもうすぐ二時。

 完全にさっちゃんたちとの約束の時間過ぎちゃってるよ。

 ようやく真理奈先輩たちから解放されて教室に戻ったけど、当然さっちゃんたちの姿はなかった。

 ため息をついてスマホを取りだすと、数件の着信とメッセージが一つ。

 音を消してたからから全然気がつかなかった。

 

『体育館に行ってるよ』というメッセージにまたまたため息が漏れる。


 この時間、体育館では文化部の発表が行われているはずだ。

 合唱を聞きに来てよ、と微笑んだ石川先輩の顔が頭に浮かぶ。

 もちろん合唱部以外にも、チア部や吹奏楽部、軽音部、あと有志の発表なんかがあるから、今行っても合唱部の発表は行われていないかも知れない。

 だけど。

 やっぱりやめておこう。

 さっちゃんに体育館には行かないと、メッセージを打ったけど、返事は戻ってこなかった。

 きっとさっちゃんも、気がつかないんだろうな。

 ま、いつかは気がついてくれるだろうから、いいか。

 そう思って顔を上げたら、教室から出てきた委員長と目が合った。


「あれ? 佐倉さんひとり?」

「うん。色々あってさっちゃんたちと合流し損ねた。委員長はこれから休憩?」

「うんそう。みんな体育館に流れていったから、客足も減ったしね」

「お疲れさま」


 実行委員もいるけど、委員長はクラス委員として率先してがんばってくれてたもんね。

 ほんとお疲れさまだよ。


「あー、腹へった。ねえねえ佐倉さん。ヒマなら昼飯付き合ってよ。一人で食べるのも淋しいしさ」


 はいはい。

 それくらいならお安いご用ですよ。

 てか、ちゃんとお願いされるのって久しぶりだよ。

 みんな、私の意見なんか聞かずに拉致する人多すぎで、委員長が光り輝いて見えるよ。

 ざ・常識人!

 常識ってホント大事だと思う今日この頃。


 早く簡単に食べられるものという委員長のリクエストに応え、私は八組の焼きそばを教えてあげることにした。

 東野くんと結衣ちゃんは当番が終わったのか見当たらなかったけど、時間も終わりに差し迫ってきたせいか、頼んだ焼きそばは大盛りで委員長は大満足だった。

 

「もうすぐ文化祭も終わりだね~」


 大盛り焼きそばを頬張る委員長の隣に座って、私は空を見上げた。

 秋の高い高い空は雲ひとつない。

 なんだかんだ色々あったけど、やっと一つの行事が終わろうとしている。


「佐倉さんはまだベスパコンあるだろ?」


 嫌なこと思い出させないでください。

 でもいいんだ。

 ベスパコンには理子先輩と出るんだから。


「そういや委員長、桃坂先輩とは仲直りできた?」


 桃坂先輩と委員長が言い争いをしたのはベスパコン絡みだったから、ふと気になって聞いてみた。

 すると委員長は恥ずかしそうに笑って、頭を掻いた。


「あのときは、ごめんね? 僕、静流先輩の気持ちなんか全然考えてなくて、自分勝手な思い込みで静流先輩を責めて。あれから静流先輩とはちゃんと話をして、ちゃんと謝ったから」


 そっか。ならいいんだけど。


「なんだかさ、バスケもしないで佐倉さんと楽しそうにしてる静流先輩見てたら、嫉妬しちゃったみたいで。ベスパコンに一緒に出てなんて言って、ごめんね?」


 べ、別にいいけど。楽しそうにって……。嫉妬って……。

 ま、いいか。

 桃坂先輩のベスパコンの相手は私じゃないんだし。

 それを見たらきっとみんなの誤解も解けるだろう。

 

 ふうっとため息をついたときだった。


『一年一組の佐倉こころさん。至急体育館にお越しください』


 体育館から聞こえてきたマイクの声に、私と委員長は顔を見合わせた。 


「えっと、呼んでるよ? 行った方がいいんじゃない?」

「あー。うん。そう、だね」


 校内放送ではない。

 その声は開け放された体育館の中から聞こえてきた。

 嫌な予感、というより確実に嫌なことが待っている。

 どうしよう。


「聞かなかったことに……」

『佐倉こころさーん。文化部発表が停滞しちゃいますよー。至急体育館に来てくださーい』

「無理だろうね」

「うんそうだね」


 仕方ない。

 私は重い腰を上げた。

 体育館はすぐそこだ。

 まだ焼きそばを食べている委員長に力なく手を振って、私は歩き出した。 




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