思いがけないところからの爆弾投下です
そうやって桃坂先輩のおうちにごはんを食べに行き、一緒に登校すること数日。
毎朝一緒に登校して帰りは一緒に下校するって、ごはんを一緒に食べてる分、普通に付き合ってるカップルより一緒にいる時間は確実に長いよね。
それが普通になってる自分がちょっと怖いです。
そのせいか、それともベスパコンの出場予定者の欄に名前が書かれたからか、桃坂先輩と私が付き合っているという噂は、噂ではなく周知の事実として語られるようになっていた。
いや、事実じゃないよ?
事実じゃないけど、説明してもみんな生温かい笑顔で頷くだけなんだもん。
うんうん。分かってるよ? そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないって顔に書いてあるよ。
だからベスパコンについては、もう諦めました。
桃坂先輩は相変わらず、文化祭実行委員長の真鍋先輩に抗議してるみたいだけど、あの人、無理だよ。
桃坂先輩も私相手じゃ不満だろうけど、文化祭の恥はかき捨てと思って、いい加減諦めたらどうだろうか。
大体、黄色ねこする時点で、私終わってるしね。
文化祭が終わったら、悪い夢だったと思って記憶を全消去するんだ。
桃坂先輩にそう言ったら、お前簡単すぎ、と言われてしまった。
でもね~、決まったことにがたがた文句を言って場を乱すよりも、嫌なことをひと時我慢した方がよほど効率的だと思う。
そういえば、昔から私は諦めが早かった。
小学生の時の通知表には必ず、諦めずかんばろう、とか粘り強く、とか書いてあったな。
まあ良くも悪くも、あっさりしているのが私なのだ。
「そろそろ彼氏のお迎えの時間だね~」
一緒にメニューを作っていた、さっちゃんが時計を見てそう言った。
「そうだね~。彼氏じゃないけど」
いつも通りに返すと、さっちゃんはまたまた~という目をして笑った。
いつも通りじゃなかったのは、たまたま近くにいた委員長が話しかけてきたことだ。
「ねえ、本当に佐倉さんって静流先輩と付き合ってないの?」
静流先輩。
そういえば前も委員長は桃坂先輩のことをそう呼んでいたっけ。
「委員長って、桃坂先輩と知り合いなの?」
「うん。中学の時の先輩。静流先輩もバスケしてたから」
「へーそうなんだ」
過去形ってことは、今はしてないのか。
というか、私、桃坂先輩が何部に入ってるか知らないよ。
絶対彼女じゃありえないことだよね。
「静流先輩、中学の頃は凄かったんだよ? 県の代表にも選ばれてたんだから。俺の憧れの人だったんだ」
また過去形だ。
「なんで先輩、バスケやめちゃったのかなぁ」
知りません。バスケしてたことも知らないのに。
「彼女だったら知ってるかと思ったけど」
「彼女じゃないってば」
「うん。本当みたいだね~」
いつもそう言ってるでしょ?
「でもじゃあなんでベスパコンに一緒に出るの?」
「文化祭実行委員長の独断です」
きっぱり言うと、委員長はふーんと口元に手をやってしばらく考え込んでいた。
「こころー、彼氏がお迎えだよ~」
誰かが教えてくれたので、私は席を立つ。
もう否定する気力もないよ。
「じゃあさ、佐倉さん。僕とベスパコン、出ない?」
……。
変な幻聴がしましたけど?
私はゆっくりと振り返った。