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注目されちゃってます

「え~。どの子~?」

「ほら、あのちっちゃい子」

「あ~。そういえば最近一緒にいるの、よく見たわ」

「わ~、確かにちっちゃい」


 ……。

 ちっちゃいちっちゃいって、連呼されてるような気がするのは気のせいだろうか。

 確かに小さいよ?

 小学校の時はそうでもなかったんだけど、中学に入ってぴたりと伸びなくなっちゃったんだよね。

 だけどなんでちがうクラスの知らない子や、ましてや上級生のお姉さまたちにちっちゃいと連呼されなきゃならないんだ?

 むむ~。

 もしやこれは今朝の眼鏡男子と桃坂先輩が絡んでいるのではないだろうか。


「なんか注目されてるよね~。佐倉さん」


 今日一緒に日直に当たった、クラス委員の島田くんがのほほんと言った。

 委員長もそう思うのなら、やっぱり気のせいじゃないよね。

 教室の中にいても感じた視線は、集めたプリントを職員室に届けるために廊下に出ると、より一層ひどいものになった。


「心当たりある?」


 心配してくれてるんだろうか。

 優しいね。委員長。

 一応心当たりといえば、今朝の眼鏡男子と桃坂先輩のやり取りだけど。

 どう説明していいのか分からないから、首を横に振っておいた。




 先生にプリントを渡し、職員室を出ると、前の廊下に難しい顔をした桃坂先輩が立っていた。

 あ~。いやな予感しかしないよ。

 気付かなかった振りをして、スルーしようかと思ったら、隣にいた委員長が反応した。


「あれ? 静流先輩?」

「へ? ああ、島田か」


 あらまあ、お知り合いで。

 それでは邪魔者は消えますので、ごゆっくり。


「なにふけようとしてんだよ。用事があったから待ってたんだろ」


 あー。こっそり逃げようとしたら首根っこを掴まえられました。

 苦しいです。離してください。


「俺こいつに用があるから、悪いけど、島田、また今度な」


 ずるずるずる。

 問答無用で引きずっていくのはやめてください。


「あー。じゃあまた今度」


 委員長も、笑って見送らないで。

 誰かたーすーけーてー。




 先輩に連れてこられたのは校舎と校舎を繋ぐ、二階の渡り廊下。

 なぜにここ?

 目立ってません?


「変に誰もいないところでこそこそしてると、なに言われるか分かんねえだろ? 佐倉も一応女子なんだし」

「一応ってなんですか。一応じゃなくても私は女子ですよ」


 私が珍しく即座に反論すると、桃坂先輩は頭を抱えてため息をついた。


「そうなんだよな~。佐倉も女子なんだよな~」


 一体先輩は私の性別を何だと思ってたんだろう。


「俺さ~、佐倉のこと、全然女子だって感覚なくて」


 しつれーですね。


「なんも考えてなかったんだよね~。ほんと、悪い」


 いまさらですね。


「だからまさか真鍋がベスパコンにお前を引っ張りだすとは思わなくって」

「……ベスパコン?」


 なんでそれがここに出てくる?

 ベスパコンは桃坂先輩が女装で決定なんでしょ?


「なんで俺が女装するんだよ! そうじゃなくて、俺のパートナーがお前になっちゃったから謝ってるんだろ?」


 ……は?

 なにか空耳が聞こえたような。

 いつの間にか空にはイワシ雲が。秋ね~。


「現実逃避してんじゃねえよ。俺だって逃げたいけど」

「ちょちょちょっと先輩! 悪趣味な冗談言わないでくださいよ。世の中には言っていいことと悪いことがあるんですよ?」

「俺も真鍋にそう言った」

「じゃあなんで」

「あいつの耳は自動変換装置付きだ」

「……」


 ひゅるるるー。

 一陣の風が私の髪を揺らす。

 なんで? どうして? 

 よりによって、桃坂先輩と私?

 ありえねー。


「まだ文化祭までもう少しあるから、なんとか粘ってみるけど。あいつの耳はなぁ」


 渡り廊下の柵に両肘をついて、がっくりと項垂れる桃坂先輩の言葉に力はない。


「ま、なんとかしてみるか。しばらく俺のパートナーだって噂になるかも知れないけど、もうちょっと我慢な」

 

 無理やりと分かる笑顔を見せられても、どうしようもなく不安なんですけど。

 そんな不安が顔に出ていたのだろうか。

 珍しく、桃坂先輩が優しく微笑んで私の頭をぽんぽんと軽く撫でた。


「大丈夫だよ。心配すんな」


 お心遣い、

 非常にうれしいのですが、

 先輩、

 ここは、

 見晴らしの良い、

 渡り廊下ってこと、

 忘れてませんか?


 前後の校舎の窓に、

 人の顔が、

 いっぱい、

 並んでますよ……。


 

 オワッタ。ワタシ。



 

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