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登校デートじゃないのです!

 正直言うと、先に行っちゃおうかなとか、反対に寝坊したふりしちゃおうかなと、思わなかった訳ではない。

 だけどなあ。

 そんな風に逃げても、桃坂先輩は諦めてくれそうにないし。

 佐藤先輩のためって、どんだけ親友ラブなんだよっ。


 八時少し前に部屋を出てマンションの前で待っていると、時間通りに桃坂先輩が現れた。

 ってかこの頃先輩テンション低くないですか?

 いつもの調子だったら大きく手を振りながら現れそうなものなのに、今朝は普通に歩いてきて、普通に片手を上げて挨拶をした。

 いや普通でいいんだけど。


「なんかこの頃元気ないですよね。桃坂先輩」


 無言で歩くのも居心地悪いので、とりあえず会話を振ってみる。


「え~。そうか? ん~。そうかもな」


 いや、自覚なかったのかな?


「そんなに佐藤先輩のフォローが大変なんですか?」


 そんなに大変なら、別に私のことは放っといてもらってもいいんですよ?


「いや~。まあ佐藤のこともあるけど、文化祭がなあ……」

「文化祭?」


 なんでだ?

 文化祭と言えばお祭り。

 お祭りと言えば桃坂先輩。

 楽しくてテンション上がると言うなら分かるけど、なんで反対に下がってるの?


「なんかさ、今年はベスパコンの目玉出場者がいないらしくってさ。実行委員の連中が、俺に出ろ出ろってしつこいんだよ。佐藤なら分かるけど、なんで俺が?」


 なるほど。

 私は初めての文化祭でベスパコンがどんなものなのか分からないけど、確かに、普通のカップル見ててもつまんないよね。

 やっぱ、絵になるカップルが必要だよ。


「逃げ回ってたら、あいつら何て言ったと思う? 俺が女装して佐藤とカップルになってでもいいから出場しろって。勘弁しろよ~」

「……」


 似合うかも。


 決して口には出さなかったのに、桃坂先輩が私をぎろりと睨んだ。

 また私の心の声を聞きましたね?


「恥はかき捨てって、言いますよ?」


 だってそうでしょ?

 桃坂先輩と佐藤先輩が男同士のカップルで出場したら、佐藤先輩を狙う二人組も争う意義のほとんどを失うことになる。

 一石二鳥じゃん。

 すると桃坂先輩は大きなため息をついた。


「お前ねぇ。簡単に言うけど、俺と佐藤のありえない話を、信じてる奴もいるんだぜ? そこに二人でベスパコンになんか出たら、俺、卒業までそっち側の人だって思われるじゃん」

「佐藤先輩のためです」

「俺、そこまで佐藤に尽くす気ないから」


 きっぱり言い切る桃坂先輩。

 別にいいじゃんねえ。

 私は理子先輩とベスパコンに出ても、全然構わないけど。

 いやむしろ出たい。


「お前、またろくでもないこと、考えてんだろ」


 ふと顔を上げると、桃坂先輩が嫌そうな顔でこちらを見ていた。

 

 またへんなことって、桃坂先輩が女装したらめっちゃ可愛いだろうなぁとかですか?

 そりゃあ誰だってそう思うでしょう。


「いいじゃないですか。文化祭の恥はかき捨てですよ。私だってよりによって、幸せを運ぶ金色ねこかっこ金色は無理だから黄色バージョン、やるんですからね。それに女装って言うから聞こえは悪いけど、その辺の女子より先輩、全然いけてると思いますよ」

「……全然うれしくねー」

「そうですか~? 男子の可愛いもアリだと思いますけどね~」


 全力でため息をつく桃坂先輩。

 こりゃ重症だな。


「桃坂先輩って女の子の友達とか、います?」

「えー、話するくらいの奴ならいるけど」


 そうだよね。

 フレンドリーが売りの桃坂先輩なら、一緒に盛り上がる子、いっぱいいそうだもんね。


「だったら女装がいやなら、誰か女の子と出たらいいんじゃないですか?」


 こりゃまたナイスアイデアだね。

 だけどなー。

 ちらりと隣を憂鬱そうに歩く桃坂先輩を見上げる。

 色白のすべすべのほっぺにぱっちりおめめ。

 うわ。横から見るとまつげが長いのが良く分かる。

 こんな女子力半端ない桃坂先輩の隣に立つ勇気のある子は果たしているんだろうか。

 私がそんなことを考えていると、桃坂先輩は一言。


「えー、めんどくさい」


 めんどくさいって……。

 子供ですか。

 子供ですね。

 あ、それか……。


「もしかして誰か本命がいるからってことですか?」

「それはない」

「じゃあ女装」

「お前、ほんと俺に容赦ないね」



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