誰か状況を説明してください
私が下宿している叔母のマンションは駅のすぐ近くだ。
ちなみに桃坂先輩の家は同じ方向だけど、もう少し先にある。
佐藤先輩の家は同じエリアだけど、私たちの家とは反対方向。
という訳で、佐藤先輩とファミレスの前で別れて、桃坂先輩と歩いてます。
いや、方向が同じだから、一緒に歩いてるだけですから。
ファミレスからほんの数分歩いたところにある高層マンションが、私の仮の住処だ。
さっすが、医者は稼ぎがちがうよね。
私的にはオートロック完備、管理人さん常駐のマンションに住めて、仮のお嬢様気分を味わえてラッキーなんだけど、稼いでいるはずの涼子ちゃんはほとんど帰れないという皮肉な現実。
「じゃあここで。おやすみなさい」
マンションの前で、桃坂先輩が自分ちに帰るのに遠回りをしていないことを願いながら、頭を下げる。
「ああ、じゃあ明日の朝は、八時にここな」
さらりと告げられて目が点になる。
は?
なんとおっしゃいました?
この頃耳が遠くて……。
理解出来てないのが分かったのか、桃坂先輩は呆れたようなため息をついた。
いやだって、理解出来る訳ないでしょ。
まるで待ち合わせて一緒に学校行くみたいな話になってるし。
「しばらく朝は一緒に行くから。寝坊しないでちゃんと待ってろよ」
は!?
ほんとに待ち合わせて学校行くつもりなんですか!?
「ななななななんで……っ」
「あいつらにつきまとわれるのは登校時間だけだろ? だからあいつらが諦めるまで一緒に学校へ行ってやるから」
行ってやるから!?
上から目線ですか!?
「いやいやいやいや。大丈夫ですってば。なんにも問題は」
「どんな問題が起こるかは、誰にもわかんねえよ。もし、佐倉に何かあったらどうすんだよ。一之瀬は佐藤を絶対許さないだろ?」
「……」
「佐藤のためだ。しばらく我慢しろよ。じゃあな」
畳みかけるように言われ、言い返せる能力がないのが、本当に恨めしい。
がっくり肩を落とす私に背を向けて歩き出した桃坂先輩が、不意に足を止め、くるりとこちらを振り返った。
なに!? 心変わりした!?
いつでも受け入れオッケーですよ!!
「あ、そうだ。お前明日からうちで夕飯食べろよ。母ちゃんに言っとくから」
はあっ!?
人間、あまりに意外なことを言われると、言葉が出ないっていうのは本当です。
「じゃあな。早く家に入れよ」
ぱかっと口を開いたままの私を残して、桃坂先輩の背中は暗闇の中に消えてしまった。
てか、え~~~~~!?
桃坂先輩んちで夕飯!?
どういうこと!?
なんで!?
意味わかんないんですけど!!
マンションの前で口をぽかんとあけたまま立ちつくす、私の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。