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昔から口は災いのもとっていうよね

 桃坂先輩の話はこうだった。

 理子先輩に恋した佐藤先輩は、夏前からぱったりと女の子を寄せ付けなくなった。

 桃坂先輩も協力して、なんとか女の子たちの不平不満は抑えられてたみたいなんだけど、文化祭を目前に女の子たちの我慢も限界に達したらしい。

 そりゃそうだよね~。

 好きな人がいたら、文化祭は一緒に歩きたい。

 他の子へのけん制にもなるし、第一、文化祭のあとには後夜祭がある。

 後夜祭のメインイベント、ベストパートナーコンテスト通称ベスパコンに佐藤先輩と出場するのが夢だって子、結構いるよね~。

 それでとうとう佐藤先輩の彼女候補ナンバーワンの呼び声高い、綺麗系代表と可愛い系代表の二人が、煮え切らない佐藤先輩は置いておいて、どちらが彼女に相応しいか、苛烈なバトルを繰り広げ出したらしい。

 その辺は知ってます。

 毎朝私の頭越しにバトルしてますから。

 桃坂先輩たちに言うとややこしそうだから、言うつもりはないけどね。

 嘘をつくのは苦手だけど、黙ってるのは結構得意なのです。


 でもさ佐藤先輩の彼女と言いながら、佐藤先輩の気持ちはさておいてってところが面白いよね~。

 あはは。

 けど佐藤先輩の周りの女の子たちが勝手に盛り上がってるのって、いつものことじゃないのかな?

 なんでそれで理子先輩が落ち込むんだろう。


「それがさ、タイミングが悪くって」

「タイミング?」

「佐藤さ、とうとう一之瀬に文化祭一緒に行動しようって言ったんだ」


 え!?

 とうとう告白!?

 文化祭一緒にって、そういうことだよね!?


「最初はさ、一之瀬もいつもみたいに四人で行動しようって言われたと勘違いしてたみたいなんだけど、佐藤が一生懸命誤解を解いて、なんとなくいい感じになるかなってときに、あいつら乱入しやがったんだ」

「乱入……」

「雰囲気見りゃわかるだろうに、あいつら、突然現れて、佐藤にどっちが本命なのか選べって迫ったんだ」


 それって、わざとじゃないんだろうか。


 その上おふたりは、佐藤先輩と一緒にいた理子先輩に、「私たち二人のうち、どちらが佐藤に相応しいと思う?」と尋ねたらしい。

 完全に理子先輩を馬鹿にしてる。

 理子先輩、お前なんかお呼びじゃないんだよって言われたような気がしたんだろうな。

 

「あの二人に本気出されたら、誰だってビビりますよ」


 ああ理子先輩可哀そう。


「あの二人って、佐倉知ってんの?」


 ぎょぎょぎょっ。

 うわ失言しちゃったよ。どうしよう。

 焦って桃坂先輩の顔を見ると、見逃してやんねえぞという顔をしてらっしゃいました。

 今日の桃坂先輩、なんかいつもより怖いんですけど。

 桃坂先輩に睨まれて、仕方なく朧先輩たちのことを話す。

 私の頭の上でけんかしてることは、ぼかしておきますね。


「……! あの二人、ここちゃんのところにも行ってるの?」


 頬杖をついて憂いを浮かべていた佐藤先輩がぱっと目を見開いた。

 うわ。そんな綺麗な目で直視しないで。目がつぶれる。


「あっ、でも大丈夫です。実害はないですから。どっちかっていうと、有難迷惑気味な感じですけど」

「それどういう意味?」

「基本的には登校時間に私を待っていて、お菓子をくれたり、今日も可愛いわねと誉めてくれたり、貴重なオシャレ情報を教えてくれたりするだけですから」


 まあ迷惑っちゃ迷惑だけど、登校時間だけのことだし、そのうち諦めてくれるかな~と考えている。

 ただ、その理由がね~。

 桃坂先輩の彼女だと思われているのは、非常に不本意ですが。


「そうなんだ。ごめんね。ここちゃんにまで迷惑かけてるとは」


 私の言葉を聞いているのかいないのか、またもやがっくりと項垂れる佐藤先輩。

 

「いいんですよ。登校時間だけのことですし、嫌がらせをされてるわけではありませんから。それに結構先輩たち、面白いし」


 彼女たちは学校内でもファンが多い。

 綺麗で可愛くて、色んなことも知っているし、話も面白い。

 私に絡む理由が、ちょっとアレだけど、まあ彼女たちの話を聞いているのは、決して嫌ではないのだ。


「静流、悪いけど、頼める?」


 佐藤先輩が桃坂先輩に暗い声で言った。

 黙って聞いていた桃坂先輩が大きなため息をつく。

 あれ?

 なんでそんな深刻な雰囲気になっちゃってるの?


「分かったよ」


 え?

 なんでそれだけで意思疎通できちゃうの?

 もしかして、先輩たち、付き合ってる?

 私がそんな馬鹿なことを考えていると、桃坂先輩が机に置いてあった伝票を佐藤先輩に渡した。


「じゃ、ここは佐藤のおごりってことで」

「了解」

「えっ!?」


 なんでそうなる?

 驚く私に佐藤先輩はにっこり微笑んだ。


「迷惑料だから。ごめんね、ここちゃんまで巻き込んじゃって。それも全然知らなくて。俺、ほんと駄目だよな」

「これで一之瀬に逃げられたら、ほんと目が当てられないからな」

「うん。分かってる。なんか、ここまで来たら、やるしかないよね」

「そうそう。周りのことを気にして、一番大事なものを大事にできないなんて、馬鹿のすることだからな」


 どうやら二人の間では意思疎通が出来てるみたいだから、まあいいか。

 とりあえず奢ってくれるらしいから、遠慮なくいただきましょう。

 

 




 この時の私は知らなかった。

 佐藤先輩が桃坂先輩に何を頼んだのか、ということ。

 それにより誤解の雪崩現象に自分が巻き込まれていく、ということを。



 

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