*プロローグ*
時はこの世界での西暦1800年頃のこと。
魔法は存在していた。しかし、人々は徐々に魔法を信じなくなっていた。魔法の力の根源である自然への畏怖も薄れていっていた。各地で森林や池、湖、山など神聖で見えない力があった場所が人の手によって脅かされていった。その結果、この世界での魔法の力は全盛の時と比べて少なくなってしまった。魔法を信じ魔法とともに生きるものは人のいない奥地で暮らすか、人ごみに紛れてひっそりと暮らしていた。そんな時代に人々から恐れられていた魔法使いが2人いた。
1人は漆黒の森に住む魔女。ヒトを憎み、漆黒の森を脅かそうとするものを残虐な方法で殺していた。また、世界各地で魔女によるヒト狩り伝説が残っている。それらの伝説がすべて事実ならば、魔女は最低でも400歳を超える年齢である。通称、(黒の魔女)と呼ばれている。世界各地で彼女の呼び名があるが、多く呼ばれているのが上記のものである。
もう1人は神出鬼没の青年魔法使い。噂によればとある王国を1人で滅ぼし、そこにあった城で暮らしているという。好奇心の名の下の実験によりヒトを殺している。黒の魔女と比べ、その名が有名になったのはごく最近だが、今のところ、この魔法使いに殺された人は魔女に引けをとらない数に上る。また、女性をその美貌と魅力で玩び、自身が飽きたら殺し、その女性の心臓を食べてしまうといういわれもある。さらに玩ばれているのはヒトだけではなく、妖精などの魔法を使う種族の女性もいるといわれている。そんな残酷な面とは裏腹な輝くような美貌にちなみ、(白の魔法使い)と呼ばれている。
黒の魔女も白の魔法使いもヒトにとって恐ろしい存在である。しかし、この2人を殺すことが出来るのはこの2人しかいないのである。もうこの世界には2人を超える力を持つ者がいないからである。
1807年の春。漆黒の森にある魔女の家にて。
部屋には1人の少女がいた。この少女こそ、悪名高い魔法使いの1人、黒の魔女である。いや、正確には少女ではないのだけれど。艶やかな黒髪は床につくくらい長い。肌は陶器のように白く、瞳は黒くて大きい。一見、等身大の人形がロッキングチェアに座っているのかと思ってしまう。見ると背筋が寒くなるほどに整った顔である。長いまつ毛が上下し、瞬きをするのを見てやっと、あぁこの人形のような人は生きているのかと思ってしまうほどだ。螺鈿の飾りを施した漆塗りのキセルを手に持ち、慣れた様子で煙草を吸っている。
「あのアイル村の奴ら、また突然魔法の注文をしよって。私を誰だと思っているんだ。」
その声は少女のような姿に似合わずとても低い。声だけ聞くと恐ろしささえ感じる。いや見た目とのギャップでさらに恐ろしいかもしれない。魔女はロッキングチェアから立ち上がると煙のように消えた。
黒髪の少年が漆黒の森を歩いていた。全身傷だらけで血を沢山流していた。彼が通ると血で、積もっている雪が赤くなった。朦朧とした意識の中で少年は小さな小屋を見つけた。壁面の木は腐っていて、小屋中蜘蛛の巣だらけだった。長い間誰も使っていないだろうと思わせる外観だった。彼は小屋の扉を開けた。そこには彼が見た小屋の外観からは想像できない広さの部屋が広がっていた。部屋には沢山の物が置いてあり、生活感を感じさせない外観とは間逆で誰かが住んでいることを感じさせる。彼はそこで意識を失った。部屋の外は肺が凍ってしまうんじゃないかと思うほどに寒いが部屋の中は暖かい。暖炉の炎が少年の体を温める。暖炉のそばにはロッキングチェアが置いてあった。
漆黒の森で死ぬ寸前だった少年、アレン・ハンドバードは目的地であった黒の魔女の住処に意図せず辿り着いた。
最後まで読んでくださった方もチラ見の方もありがとうございました。いきなり主人公が死にかけました。この経緯は後に書きます。一応オチは考えて、最終話は書きました。...問題は万年三日坊主の私が最後まで書けるのかと言う..(ガクガクブルブル)。こんなヘタレな作者ですがよろしくお願いします。投稿は不定期かもです(汗)