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お茶会がずっとシリアスなので息抜きに。

しょっぱなからトイレトイレと品がないです。ご容赦ください。

どうして、こうなった――?


伝い落ちる汗を感じながら、私、笹倉(みやこ)は、呆然と開けた扉の向こうを見ていた。


仕事を終えて車に乗り込んだ時は何ともなかった。

車庫に――ちょっと斜めになっちゃったけど――車を入れて降りた時もいつも通り。

玄関の鍵を開けて、「ただいまー」と言いながら扉を開けた時も、まだ何ともなかった。それにしても、誰も居ないのに「ただいま」と言ってしまうのはなんでだろう。不思議だよね。

まあ、それはおいといて。

この日、仕事帰りにコーヒーを飲んだのがいけなかったのか。それとも、職場が自宅から車で一時間もかかる田舎だったのが拙かったのか。はたまた、近頃急に冷え込んだのが原因なのか。

私は運転中にトイレに行きたくなった。

帰宅途中には勿論コンビニだってあるし、公園だってある。

何となく、コンビニは入ったら何かを買わなくちゃいけないような気がしたし、公園に寄るには駐車場に入れてからトイレまでだいぶ歩く事になる。はっきり言って面倒だった。

今考えると、その方が良かったのかもしれない。

でも、あとちょっとで家に着くし、まだ我慢できる。

そう思って、何処にも寄らずに真っ直ぐに自宅まで帰って来た。

靴を揃えるのももどかしく「後でいいや」と脱ぎ散らかしたまま、急いでトイレへと向かう。寒くなると我慢がきかなくなって、ホント困るよね。

とにかくこれでやっと落ち着ける、と思って勝手知ったる自宅トイレのドアをガチャリと開き――一瞬固まった後、バタンと閉めてしまった。


「え?」


ちょっと待て。――今のは何?

そろりと首を動かし、周囲を確認する。年季の入った壁に狭い廊下。キッチンへ続く硝子戸。自室へ続く階段。見慣れた自宅の内装だ。うん、自分の家に間違いない。

さっきのはきっと見間違い。うん、絶対そう。

そう思って、手にしたトイレのノブをそっと捻る。

今度は恐る恐る、ドアをゆっくり開けて、隙間からそうっと向こうを覗き込む。

えー…見間違いじゃなかったよ、ママン…。

そこには鎮座している筈の――ある筈のものが、無かった。

家と同じくらい年季の入った、見慣れたもの…トイレには必要不可欠の、絶対無ければならない筈のもの――便器が見当たらない。

たらり、と一筋、蟀谷を汗が伝う。

困った。

非常に困った。

非常事態である。ついでに異常事態?

これが今日でなければよかったのに!加えて言うなら、この切羽詰まった状態の時でさえなければ!

家までの我慢だと思えばこそ、どうにか気を逸らす事が出来ていたのにどうしよう!?

諦めて大きく開いたトイレの扉の向こうには、「うわあ」とあんぐり口を開いたままになりそうな、高級感溢れる居間が広がっていた。

まるでテレビで紹介されるような、曲線を描いたソファとかテーブルとか、装飾された高い天井とか…これ、絶対私の家じゃないよ!

とか、感心してる場合でも無い!今、私に必要なのは、多少古ぼけていてもどっしりと構えた白い便器様なんだよ~!どこ行った、トイレの便器様!

旅か!?旅に出たのか!?うちの何が気に入らなかったんだ!?掃除か!?さすがに週一では不満が!?

すまなかった、毎日はちょっと無理だが三日に一度は綺麗に磨くから戻って来てぇ!?

あー、やばい。…追い詰められた思考が暴走したようだ。


このまま扉を閉じて見なかった事にするのは簡単だ。しかし、私の今の状況がそれを許さない。

いっそ家の外とか風呂場で――と一瞬考えなくもなかったが、これでも一応女である。さすがにそれは恥ずかし過ぎる。風呂場は…誰かに見られる可能性は低いとはいえ、自分の記憶には残るんだぞ?見るたびに思い出しては羞恥に死にそうになるかもしれない…。外とか、いくら田舎でも通報とかされたら目も当てられない。たしか、軽犯罪法違反とかになるんじゃ無かったろうか?

いや、そんな事はどうでもいい。

はっきり言おう。

漏れそうである。

二十歳を幾つも超えた女がお漏らしとか、実際にやらかしてしまったら立ち直れないものがある。

家に帰ってトイレのドアを開けた時点で、脳はもう大丈夫だと判断してしまって我慢のストッパーが利いていないのである。いったいどうしろと!

冷や汗が額に浮かび、流れ落ちるのも当然だろう。

自宅のトイレの代わりに広がる豪奢な居間に佇み、驚いたような顔でこちらを見ている女の子が、結婚式で花嫁が着るようなドレスであっても、この際見なかった事にする!生理現象に敵うモノなど殆ど無い―――筈だ!

有り得ない事象全部を気にしない事にした私は、切羽詰まった自分の身体を助けるべく見知らぬ女の子に声を掛けた。

危機管理能力など知ったことか!きっとその辺にポイ捨てされたに違いない!


「あのっ!すいません、トイレ貸して下さい!」


――うん。膀胱破裂の危機は回避されたよ、よかったね!


よく考えたら、言葉が通じないかもとか、不審者として騒がれていたかもとか、もっと慎重に行動するべきだったのかもしれないけど…。

まあ、なんとか無事におトイレ借りることが出来たから、まあ、いっか。はち切れんばかりだった膀胱を空にして、ほ~っと息を吐いて――気がついた。


どうしよう。




トイレットペーパーが無い……。


「………す、すいませ~ん!か、紙、ありませんか~~~!?」


それにしても、此処ってどこですかね?


一人称オンリーは勝手がわかりませぬ…。


ちょこっと直しました。

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