大オニごっこ!
学園に足を踏み入れた瞬間、いきなり花火のような爆音が轟いた。
僕はあまりに突然な出来事に体を硬直させてしまっていた。
だから理解するのが遅れてしまっていた。
気づいた時には後悔の念が体中を駆け巡っていた。
そう、何故か分からないが、今僕の体にはタスキがかけられていた。
……な……なにこれ?
その様子を見ていた剣斗も驚愕の表情をしていたが、次に声を発した人物を見て、状況を余すことなく理解した。
「待ってたぞ天満っ!」
……ま、まさか……?
僕は全身で嫌な予感を感じていた。
何故ならその声は、紛うことなき我が家の暴君こと赤世姉さんだった。
赤世姉さんは、ニコッとしながら僕を見つめていた。そしてビシッと僕に指差していった。
「事態は飲み込めてるな、我が弟よ!」
う、うん、そっか……やっぱり平和な学園生活は無理か……。
僕は状況を素早く理解した。
これは、中学の時と同じ、恒例の催し物だ。そして間違い無く赤世姉さん主催のイベントであり、どうやら僕は否応なく巻き込まれてしまったんだ。
いや、巻き込まれただけじゃなく、多分……。
「お前がオニから逃げる者だ! 存分に逃げるがいいぞ我が愛する弟よ!」
この騒ぎの中心になったみたいだ……僕。
気がつけばここに来るまで、僕の両隣にいた青流姉さんと黄花姉さんは、事情を一早く察して離れていた。
さすがは姉さん'ズ。赤世姉さんが現れた意味をよく分かってらっしゃる。
はあ、アカ姉が朝早く家出たのはコレの準備のためだったか。
くそぉ、予感が的中した……。
「事態は飲み込めたけどさ、オニってどういうことさアカ姉」
確かに事態は飲み込めたが、イベントの内容までは分からない。
どうやら中学の時みたいな借り物競争じゃないようだ。
それに体にかけられたタスキ。一体これから僕はどうなるんだろ?
「お前は今から逃亡者だ! 逃亡者の使命はそのタスキを守ることだ!」
「そ、それってまさか……いわゆる……オニごっこ?」
赤世姉さんは正解という意味を込めた微笑みを僕にむけた。
こ、今回はオニごっこか……。
「この学園の中逃げまくれ!」
「誰から?」
「それはもちろん、新入生全員からだ!」
マ……マジか……。
「タスキを奪われたらどうなるんですか?」
近くにいた剣斗が赤世姉さんに向かって聞く。
「フフ、それはその時のお楽しみというやつだ」
赤世姉さんは悪魔的な微笑をした。
うわぁ、アカ姉がこんな顔する時は、必ずろくでもない結果に繋がる。
これは死んでも逃げきらなきゃ……あとが怖過ぎる。
「と、とりあえずタスキを守ればいいんだね?」
「ああ」
「誰にも奪われなければいいんだね?」
「その通りだ」
赤世姉さんは、相変わらず楽しそうに僕を見つめる。
「制限時間は一時間。手段は問わない。タスキを奪った者にはそれ相応の褒美があるから楽しみにな。あ、もちろん天満、お前がタスキを守り通しても、何も無いからな」
これだよ……有無を言わず巻き込まれるけど、僕には何の得にもならないんだよな……いつも……はあ。
赤世姉さんが言うには、姉の楽しみに付き合うのは弟の義務らしく、今までこういったことで見返りがあった試しが無い。
「さて、始めるぞ天満」
「一時間、逃げ切ればいいんだね?」
「ま、キバれよ弟。出来れば死ぬなよ」
アッサリと凄いこと言わないでよアカ姉。
「合図をして十秒経ったら新入生全員がお前を追う」
ああ……始まってしまう。
「そんじゃ行くかっ! 生徒会恒例行事、何でもありの大オニごっこ! よ~いっ!」
と、とにかく全力で逃げなきゃっ!
「ドンッ!!!」
僕は赤世姉さんの合図と同時に、駆け出した。