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翌日、また押し込み強盗があった。朝になっても人気もなく、店が開かない事を不審に思った近所の人間が裏の勝手口が開いている事に気付いて良平を呼びに来た。良平とハルが行ってみると、中では全員が血まみれになって死んでいた。血が苦手なハルなどはすぐさま庭に飛び出して、真っ青な顔でうずくまり震えてしまっている。
「どいた、どいた! あれ? あんた何やってんの?」
見るからに威勢のいい町娘が飛び込んできてハルを見下ろしている。
「だ、だれだ? おまえ? ここは、町娘が入っていい、場所じゃ……」
「うだうだと、うるさいやつね。あたいはいいの。カズキ親分の一の子分、お香なんだから」
「子分? あんたが?」
「女だからってなめんじゃないわよ。こんなところで震えてるあんたなんかよりはよっぽど役に立つんだから」
そう言ってお香は若い岡っ引き姿のカズキの後ろをトコトコとついて歩く。そして死体を見降ろしては
「全員一太刀でばっさり、ですね。かなり手なれたやり口。この間の押し込みと同一犯でしょうね」
と、顔色一つ変えずにさらっといってのける。
「大した娘だな。いつの間にこんな子分を取ったんだ?」
変な娘の登場に良平が笑いをこらえてカズキに尋ねる。
「そう言う訳じゃないんだが……訳ありの娘を預かったら、この娘、大層威勢が良くてちょっと持て余しているんだ」
カズキが声を低くしてそっと耳打ちする。どうやらこのはねっかえりが苦手らしい。
「お前の方こそえらく元気のいい嫁さんを迎えたそうじゃないか。あの、護身術の道場に通ってるんだって? うかつに夫婦げんかなんかできないな」
「最近は女ばかりが強くなるな。しまいには女泥棒だ。あっちも早く捕まえないといけないのに、また押し込みの皆殺し……。身体がいくつあっても足りやしねえ」
そんな良平の愚痴にお香が反応した。
「女泥棒ですね? あれなら必ずあたいが捕まえて見せますよ。女の事は女の方が分かるんです! 楽しみにしててくださいよ」
楽しみにって……。なるほどお香は期待に目を輝かせている。まるでお祭りを楽しみにしている子供のようだ。
「女泥棒の方も近々動きがありますよ。前の時も押し込みがあって二日後には盗みに入ってます。明後日の夜当たりが怪しいんじゃないですか?」
お香は自信満々に言う。
「おいおい、いくらなんでも、押し込みと女泥棒は別の事件だろう。なんでもごっちゃにするんじゃない」
カズキが思わずたしなめたが
「あれ? でもここ数件、二つの件は連動してますよ。それにね、女の勘が働くんです。この二つの件は無関係じゃないって。女の勘を馬鹿にしちゃいけませんよ」
やれやれ、カズキも厄介なのにとっつかまっているな。そう思いながら見回すとハルの姿が見えない。どこに行ったんだろう? 良平は庭でハルを探したが……
庭の今入って来た勝手口の横に、まだ子供の死体と、小さな犬までが殺されていた。入って来た時には戸口の裏になっていて気がつかなかったのだ。
可哀想に。こんな子供や子犬まで殺しやがって……
そう思ってよく見てみると、そばにハルが目を回して倒れていた。気が強い娘も困りものだが、あんまり気が弱すぎる男も困ったもんである。