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この三人が組んだのには訳がある。生まれも育ちもバラバラな三人だが、一つだけ共通点があった。
三人とも人殺しの押し込みが憎くて仕方がないのだ。
そもそもお礼はさる大店の一人娘だった。ある夜、お礼の屋敷は押し込み強盗に襲われた。父、母、番頭、など大人はすべて殺されて、物陰に潜んでいたお礼と小僧達だけがかろうじて助かった。
助かったはいいがいきなり孤児となったお礼は、それからさんざん苦労を重ねた。店を襲った強盗たちは捕まった者もいたが、まんまと逃げおおせてしまった者もいたらしい。
逃げた連中はきっとまた同じことをするに違いない。
そう思ったお礼は夜鷹の身なりで悪党達の集りそうな場所で情報を集めては、男達をだまして金を巻き上げるような真似を繰り返していたが、そこで女泥棒のお御子の噂を耳にした。
女だてらに泥棒をしていると聞いてお礼は興味をかきたてられた。ひょっとしたら自分の親を襲った奴らの情報にも辿り着くかもしれない。女泥棒なんて存在、目立つもの。
そのお御子が追われているらしいところに、お礼は行きあたった。とっさにお御子をかくまい、役人たちに嘘をつき、お御子を助けてやった。
武家屋敷なんて危険な所を狙う お御子に訳を聞くと
「あたしの追っている男が強盗をしてその金を武士や代官に回しているかもしれないの。その男は私の母親を殺した男なのよ。絶対に許せない。そいつを見つけるために、そいつがかくまわれそうな屋敷に忍び込んでいるのよ」
と、事情を説明した。二人は同じ目的を持つ者同士という事で手を組んだのだ。
そして二人はとうとう仇の男達を追い詰めかけた。他に一人の同心もいた。
しかしその同心は仲間がやってくる前に返り討ちにあってしまった。お礼とお御子も助けようと手を施したが、いいなずけのお富士が来るのを待ちわびていたかのように、こときれてしまった。
こうして三人は、それぞれの両親、母親、いいなずけの仇を討つがために、手を組んだという訳なのだ。
唯一予想外だったのは、お御子が自分を追いかけていた岡っ引きに惚れてしまったこと。勿論本人達も出会った時点では相手の事は知らなかった訳だが(良平もハルもいまだにお御子の正体を知らないのだが)どういう訳かこの二人、仲がうまくいってしまって、今やお御子は女泥棒の傍ら、岡っ引きの妻に収まっているのだ。
こうなるとお御子が追いかけられるのはいくらなんでもまずいという事で、忍びこむのが誰にも顔を知られていないお礼。入れ代って逃げるのがお富士。岡っ引きや同心の動きを伝え、混乱させるのがお御子の仕事となっていた。
しかし仕事を繰り返すうちに岡っ引きや同心たちに背格好を知られて来てしまっているのなら、この役割分担もそろそろ見直す必要があるようだ。
あらためてお御子は考え直してみる。
顔は頭巾で隠してあるし、服装は三人とも夜目をごまかせる黒ずくめの服装だ。やはり三人でかく乱すればより、安全に逃げられるかもしれない。岡っ引きの妻である自分が良平達より先に家に戻っている事が必須の条件にはなるだろうから、私が今度は忍びこむ役に回らなければ……。