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 カズキとお香に伴われて、ようやくお由美とお美羽は屋敷の外に出る事が出来た。後は隣の沖家の屋敷に逃げ込めば、追われる事はないだろう。そう思って四人は沖家の方に向かおうとしたが、とうとう役人の手を逃れて来た田中に追いつかれてしまった。


「今戻られては困りますな。姫」


 そう言ってお美羽につかみかかろうとする田中に、お香が立ちふさがった。そのお香に田中は刀で斬りかかろうとする。それを今度はカズキが止めに入るが、その隙を突いて田中はそばにいたお由美を捕まえてしまった。


 騒ぎに気が付いたのか、誰かが知らせたのか、沖家の屋敷からも人が出てきて、沖や倉田も姿を現した。続いてようやく追いついた鉄之助も現れたが、お由美が人質になっている姿を見て動きが止まる。


「田中。もう観念して、その人を離すんだ」


 沖はそう言ったが、お由美を人質に取られているので誰も動くことはできない。


 ところがそれを意に介さない相手がいた。こてつだ。鉄之助を追って、子犬達を引き連れたこてつが、田中に向かってあっという間に突進してくる。そして田中の足元にガブリとかみついた。


「ぎゃあ」

 と、田中は悲鳴を上げたが、それがまるで合図になったかのように、他の子犬達も田中の足にかみついてくる。鉄之助はお由美を田中から引き離し、お美羽は沖や倉田の元へと駆けこんだ。


 すると倉田が田中に近付くと


「よくも、姫に無礼を働いたな!」


 そう叫んで、あっという間に田中を背負い投げにした。田中は背中を強く打って伸びてしまう。


「どうだ! 老いたとはいえ、私の腕はまだ衰えてはいない!」

 倉田は自慢げに胸を張ったが……


「うっ!」

 と、声をあげて腰を押さえながらその場にしゃがみ込んでしまう。


「じい、大丈夫?」


「倉田、大丈夫か?」


 お美羽と沖が同時に倉田に駆けつける。二人掛かりで倉田に肩を貸してやると


「そんな、殿と姫様に助けていただくなんて、恐れ多い……いたたたた」

 と、倉田が恐縮した。


「何を言っている。お前は昔からこういう時に無茶な事をするのだな」

 沖はたしなめた。


「じいって、昔からこんなだったの?」

 お美羽が聞いた。


「ああ、木に登った私を下ろそうとして、自分がその木から落ちてしまって大騒ぎした事もあった。城に勤めていたお前の母上をかばうあまり、池に落ちた事もあったな」


「じいは優しいから……。ねえ、あなたは私の父上なんでしょ? おっかさんの若い時の話、聞かせてくれる?」


「まずは倉田を屋敷に運ぼう。姫の母上は優しい人だった。だから黙って姿を消したのだ。ゆっくり話を聞かせよう」


 そう言って、二人は鉄之助達に頭を下げると、屋敷の中に入って行った。


「お由美、怪我はないか?」

 鉄之助が聞いた。


「ええ、大丈夫よ。あの姫君も、無事で本当に良かったわ。……あら?」


 見るとお由美の足元で、こてつが「く~ん、く~ん」と鳴き声をあげている。


「そうね、こてつ。お前も頑張ってくれたのよね。ありがとう。助けてくれて」


 そう言ってお由美がこてつの頭をなでると、こてつもようやく満足したのか、誇らしげな笑顔になった。




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