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 関口に向かって駆けていったお礼だったが、関口がお礼に気が付いたのを見て取ると、すぐに屋敷の建物の角をまがった。関口も追いかけて来る。さらに庭の植え込みの陰に潜ると


「お富士、あいつよ。あんたの仇は」

 そう言ってお富士と入れ替わる。お富士は息をのんで頷いた。


「気をつけてね!」

 そう、お礼に声をかけられながらお富士は関口の前へと出ていった。


「姫たちは何処だ?」

 関口はお富士に聞いた。


「とっくに逃がしたわ。あんたね? 私のいいなずけを斬ったのは」


「いいなずけ? どいつの事だか分からんな。あまりにも多く人を斬り過ぎてるんでね」


「思い出す必要なんてないわよ。今、私が仇を討つんだから」

 そう言ってお富士は刀を構えた。


 同じ姿をしてはいるがさっきの女とは違うな。入れ代ったのだろう。これはそれなりに腕の立つ構えだ。素人女ではなさそうだ。さすがに関口もお富士の構えを見て気が付いた。あらためて構えなおす。


 すると、周りの空気が一変した。明らかに緊張感が増す。この女、勘は悪くなさそうだ。眼光も鋭い。

 一気に居合抜きでケリをつけようとしても、かわされそうな空気感がある。ただ斬りに行っても読まれるだろう。


 まずは女の出方次第。様子見だな。


 やはり、女の方が先に斬りかかってきた。仇討ちなんて討とうとする側の方が、気がはやるもんだ。この女は正統派か。それなら俺の方に分がある。関口はニッと笑った。


「ここは道場じゃないぜ、お穣さん」

 関口は足元の石を蹴りあげた。石はお富士の手元に飛んで、お富士はとっさに石をよけてしまう。


 その隙に関口は横から斬りかかってきた。お富士はかろうじて関口の刃を受け止めた。


 ほう。やっぱり、この女、勘も、動きもいいな。今のを良く受け止めたものだ。しかし、守るだけでは持たないぜ。


「御用だ! 御用だ!」

 突然役人達の声が上がって近づく気配がした。ああ、面倒なことだ。


 この女、斬り殺さずに役人の足止めに使った方がよさそうだ。手を斬ろうか? 足にしようか?


 関口はそんな考えを一瞬、巡らせていた。その時、突然、同じ姿の女が関口の後ろに現れた。思わずその女に斬りかかったその時、関口はお富士に刺されていた。


「ええ、ここは道場じゃない。あんたの墓場よ」


 関口はどさりと倒れた。


「お御子の所に向かったんじゃなかったの?」

 ふうっと息を突くと、お富士がお礼に言った。


「お御子は大丈夫よ。あんたの方が心配だった。良かったじゃない、仇が討てて」


「無茶な事するんだから」

 そういいながらもお富士は笑っていた。


「さ、追手は引き受けるから、お御子をお願いね」


 お富士がそう言うと、お礼は闇の中へと消えていく。


「いたぞ! あそこだ!」

 役人達がどやどやと駆けつけて来る。


 さて、私もこいつらを撒いてしまわないとね。お富士は屋敷の窓に手足をかけると、軽やかに飛びあがり、屋根に飛び移った。そのまま屋根伝いに闇の中を駆け抜けていく。


 追手達は上を見上げながら追いかけていたが、突然屋根から何かが降ってきた。


「は、灰だ! あの女、灰をまき散らしたんだ!」

 ゲホゲホとせき込みながら、役人達はお富士の姿を見失った。



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