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 屋敷の中は、突如として騒がしくなった。大勢の役人達が屋敷の中に踏み込んで行く。


「ここの家紋の入った品と、姫君の持ち物が一緒に見つかったのだ。言い逃れはできないぞ! さあ! 姫と我が妻をさっさと返してもらおう!」

 鉄之助が張り切って大声を立てる。


「そのような女たちなどここにはいない! 無礼千万! とっとと立ち去れい!」

 田中も大声で言い返す。


「いいや、ここの蔵の中に二人ともいるはずだ。蔵の鍵を渡してもらおう!」


「そんな事はない。それにここに蔵の鍵はないぞ。あきらめろ」

 田中はそう言ったが


「嘘つくんじゃあ、無いわよ」

 という声が聞こえて、黒ずくめの衣装に頭巾をかぶった女、お礼が現れた。


「おまえ……女泥棒か?」

 鉄之助は唖然とした。


「二人は間違いなく土蔵の中にいるわ。鍵はそこにいる商人風の男が持ってる」

 そう言って大谷を指差した。


「こんなところに身をさらして、のこのこ捕まりに来たのか?」

 その大谷がせせら笑った。


「フフ。捕まる気なんてないわよ。だけど、人の命がかかってるんでね。おまけに、この、子犬達の命も」


 お礼がそう言って檻を開けるとそこにこてつが突っ込んで来た。その姿を見た子犬達が、こてつのあとを追って、一斉に飛び出してくる。犬達は庭じゅうを駆け回って、辺りは大騒ぎとなった。


 その隙に突然お香が大谷に向かって駆け出した。そのまま横を駆け抜けると


「土蔵の鍵って、これの事?」

 と、小さな鍵をかざしてみせる。


「おい、カズキ。お前の言ってた訳ありって、このことか?」

 良平は唖然として言った。


「ああ、あれの母親は天性のスリで、お香も母親に仕込まれたんだ。母親を捕まえた俺が何とか更生させようとしているんだが……」


「これじゃ、かえって、悪化しそうだな」

 良平が言葉を引き取った。


 そういう間にも、お香は意気揚々と土蔵の鍵を開けようとしていたが、そこに関口が斬りかかってきた。


「危ない!」


 そう言ってお礼は思わずお香をかばう。樹をよじ登るのに使った小さな金具で刀をかろうじて受け止めた。


 しかし次の刃が二人を襲おうとする。そこにカズキが割って入ってきた。十手を使って応戦する。


「お香! 早く鍵を開けろ!」

 そう叫ぶうちに他の役人が関口をとらえにかかった。その隙にお香は鍵を開けて、中の二人を連れだした。関口達が役人を振り払う中、三人で お由美と美羽姫をかばうように門へと逃げだす。


「あんた、私を捕まえなくていいの?」

 途中でお礼はカズキに聞いた。


「そいつは後だ。人の命がかかってるんだろう? 他の事は後でも機会はあるが、命は失ったらおしまいだ」


「ふうん。あんた結構いい男ね。気に入ったわ。……ヤバイ、あいつ、追って来た」


 振り返ると役人達を振り払ったのか、関口がこっちに向かって追いかけて来る。お礼は関口に向かって行こうとしたが、


「おい、なにをする気だ。あいつはかなりの腕をもってる。下手な真似をすれば斬られるぞ」


「私の勝手でしょ?」


「そうは行くか。俺はお前にお縄をかけるんだ。勝手に死なれてたまるか」


 そう言ってカズキはお礼の腕をつかんでしまう。


 お礼はカズキをちらりと見ると、顔の頭巾をずらしいきなり口づけてきた。全員が目を見張り、カズキは目を白黒させている。


「いい? 私があいつの気を引くからちゃんとうまく逃げるのよ!」

 そう言い残すとお礼は関口に向かって引き返していく。


「カズキ親分? おーい?」

 お香がカズキの顔の前に手を振ってみるが、カズキの目は焦点があっていない。


「ダメだこりゃ。完全にやられちゃってる。ねえ、早く二人を逃がさなくちゃ」

 お香はカズキの身体を大きくゆすった。


「あ? ああ、そうだ。隣の沖家の屋敷に入ればお二人とも安全だ。連れて行こう」

 そういいながらもカズキはまだどこかふらふらした足取りで、闇の中を駆けていた。




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