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しかしお由美は落ち着かない。あのいたいけな子犬達の姿をこの目で見てしまった。果して大の男が子犬達を本気で助けようとしてくれるだろうか?
「お前だって気になるわよね、こてつ?」
そう、こてつに話しかけると、お由美はおタエに気付かれないように、こてつを連れて、そっと家を後にした。
「さあ、もう満足したでしょ? そろそろ屋敷に帰らないと、ホントに大騒ぎになってるわよ」
お礼はお美羽に元の着物に着替えさせると、屋敷の近くまで送ることにした。
「そうだね。江戸も広いみたいだから、全部見て回るなんて無理っぽいしね。面白かったから、まあ、いいか。じいや、屋敷のみんなにも心配かけてるんだろうし」ついにお美羽も承諾した。
「分かってるんなら、二度とこんなことしちゃ駄目よ。あんたは良くても周りの大人は大変なんだから」
屋敷が近づいてくると、お礼は
「ここからは一人で帰ってね。じゃなきゃ私が誘拐犯にされかねないから」
と言ってお美羽に手を振る。
「はーい。ありがとね。楽しかったよ」
お美羽は無邪気にそう言うと屋敷に向かって歩き出したが……
「あれ?」
「あら?」
そこでばったり、お由美とこてつにでくわした。
「おばさん。またこんなところ、うろうろしてんの? あの男にとっ捕まるんじゃない?」
「だって、あの子犬達が気になってしょうがないんだもの」
そうお美羽にいいかけた所に、関口が現れた。
「まったくだ。お前達はどうも怪しい。放っておくわけにはいかないようだ」
関口がそう言うと、他にも幾人かの男が現れて、二人に宛て身を食らわして屋敷の中に連れ込んでしまった。
何? 今の? 人さらい? 自分の目の前で繰り広げられた、あっという間の出来事に、お礼は唖然としていた。
どうしよう。放っておくわけにもいかないが、今飛び出して行っても自分にはどうする事も出来ない。
本当にお富士ったら、厄介な娘を拾って来たもんね! しかもここは今夜狙うはずだった屋敷じゃないの。
とにかくお富士とお御子にこの事を知らせなくっちゃ。お礼は急いでお富士の元へと駆けていった。
「わん! わん、わん、わん!」
激しい犬の鳴き声に、良平とハルは急いで駆け付けた。すると、今まさに屋敷の裏口にお由美とお美羽が連れ込まれていく姿が見えた。ばたんと閉じられた扉に、こてつがすがりついて、前足で引っ掻いている。