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 食事を終えて人心地付くと、お礼は


「ちょっと買い物があるから、この辺で待っていて」

 と言って、お美羽を待たせて雑踏の中に入って行った。


 お美羽もお腹が膨れたばかりなので、川べりをのんびりと散歩などしてみる。すると侍姿の青年が、何かふてくされたような顔をして、川に石を投げ込んでいた。


 ところが青年の投げた石が、手元が狂ったのかお美羽の足元に飛んできた。水を跳ねあげ、お美羽の着物の裾を濡らしてしまう。


「きゃ!」

 お美羽が小さく声をあげた。


「ああ……すまない。手が滑って」

 青年は素直に詫びた。


「しょうがないけど、これ、借り物の着物だから。シミになんなきゃいいけど。それより、お侍さん、なんでそんなふてくされた顔してんの? 色男が台無しだよ。私が子守をしていた、末の男の子の顔にそっくりだわ」


 そう言われて青年は少しむっとした表情をした。


「町娘のくせに人をからかうのか? 私はそんなに子供のような顔をしてるって言うのか?」


「そんなことないよ。でも可愛いよ。だからもうちょっといい顔すればいいのに。もったいない」


「侍は可愛くっちゃ困るんだよ」

 青年は苦笑した。


「そう? 私は童顔って好きだけどな。でも、そんなしょぼくれた顔してたらモテなくなるよ」


「モテるも何も、結婚が決まりそうなんだよ」

 青年はため息をついた。


「あら、それはおめでたくっていいじゃない。なんでそこでため息なんかつくのよ?」


「結婚って言ったって婿養子さ。俺は次男坊だから、長男に跡を譲らなくちゃいけない。次男なんて損なだけさ。それに、相手の姫だってどんな女かさっぱり分からない。普通に評判さえも聞こえてこないんだ。これはきっと何かある女に違いない。もしかしたら厄介者を押し付けられるのかもしれない」


「嫌なら嫌だって言えばいいのに。それに人の噂なんて当てになんないよ? そのお姫様だって、会ってみたら気が合うかもしれないじゃない」


「その、噂さえも聞こえてこないから、怪しんでいるんじゃないか。嫌だって言ってどうにかなるもんじゃないんだよ。それに母上は、名前だけは「お静」だけど、そりゃあ、気が強くて口やかましいのさ。とてもじゃないが逆らえない。まあ、あの母上から離れられるのが唯一の救いかな。姫だって、会った時にはもう結婚がきまってるのさ。気が合わなくても仕方がないんだ。お前のような町民が羨ましいよ」


「ふーん。お侍さんって言うのも大変なんだね」


 自分も正確には町民じゃなくなっちゃったみたいだけど。そう思いながらも、お美羽にはまだその自覚は無かった。


 そこに、お礼がバタバタとやってきた。


「待たせたわね。ちょっと時間がかかっちゃって。なあに?ナンパでもされてんの?」


 お礼は見知らぬ相手にのんきに話しかけているお美羽を見て、あきれながら言った。


「違うよ。ちょっと話をしていただけ。じゃね。お侍さん。元気出してね」


 そう言ってお美羽は軽く手を振って、お礼とともに雑踏の中に消えていった。


「何だ? あの娘? ……変なやつ」


 青年の目は何となくお美羽の背中を見送っていた。



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