表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

11

「お礼、いる?」


 人目を忍ぶようにして、お富士は戸口から声をかけた。すぐに小屋の戸が開く。


 一見すると川岸の使い捨てられたような古い物置小屋。意外に中は快適に整えられていて、そこがお礼のねぐらだった。急いでお富士とお美羽が中に入る。


「どうしたのよ。人に居場所が知れちゃ困るから、めったな事じゃここには来ないでって言ってあるでしょ?」


「そのめったなことなのよ。変な娘を拾っちゃって。この子に着る物を貸してやって」

 お富士の後ろからお美羽が顔を出す。


「変じゃないわよ。私、お美羽。お世話になりまーす」

 お美羽は勝手にずかずか小屋の奥へと入って行く。


 お富士はお美羽に着替えをさせながら、お礼に事の成り行きを説明した。


「私の屋敷には父も兄もいるし、お御子のところは良平がいるからもっと駄目だし。仕方なく」


「だからって、ここに来られたって」


「若い娘を街中に一人ほっぽって置くわけにもいかないじゃない。それに私も道場の稽古があるし。悪いけどこの娘に江戸見物をさせてやってよ。満足すれば帰るだろうから」

 お富士は頼み込んだ。


「ええー? 私にこの娘の子守をしろって言うの? 勘弁してよ」


「仕方ないでしょ。仕事がバレないためよ。浅草でも、芝居小屋でも、適当に見せてやって頂戴。頼んだわよ」


 そう言い残して、お富士はさっさと行ってしまった。これって単なる厄介払いじゃないの?


「ね、ね、どこに連れて行ってくれる?」

 お美羽ははしゃいで聞いてくる。うー。仕方ないか。


「そうねえ……。まずは浅草寺にでも行って見ようか……」お礼は泣く泣くあきらめた。



 浅草寺をお参りし、門前町を冷やかして、芝居小屋で芝居を見るという、おのぼりさんのフルコースをひとめぐりすると、お腹が空いたとお美羽が言い出したので、手近なめし屋で食事を取らせる事にする。


 若いだけあってその食べる事食べること! これは後でお富士に請求しないと割に合わないわ。お礼はそんなセコイ事を考えていた。


「でね。おっかさんが亡くなった後、私は百姓の家で子守をしながら育てられていたの。みんないい子でね。私にとってもなついてくれたのよ。それなのにいきなり侍たちが来て、私が殿様の子だから城に連れて帰るって言いだして、ホントにお城に連れて行かれたの。初めは楽しかったのよ。ご飯はおいしいし、綺麗な着物も着られるし。でもすぐに飽きちゃって。そしたら江戸にいる父上に会わせるから、じいと一緒に江戸に来るように言われたらしくて、急に江戸に連れてこられたの。それなのに父上にもちっとも会えないし、屋敷の中に閉じ込められて一歩も外に出られないし。もううんざりしてたところだったの」


 これだけ食べ続けていて、どこに喋る隙間があるのかと思うほどだったが、お美羽は自分の身の上話を見事に喋り切っていた。


「成程ね。あんたはどっかのお城の殿様の、御烙印だったって訳ね」


「ああ、ゴラクイン、ゴラクイン。何かそんなこと言ってたっけ。だからちゃんとお披露目が済むまでは、身をつ、つ、なんだっけ?」


「身を慎んでいろって?」


「そうそう、それ。まあ、ようはおとなしく屋敷に閉じこもっていろ、って訳。せっかくはるばる華のお江戸に来たって言うのに、ひどいと思わない? だから思い切って屋敷を抜け出したの」


 これは……お富士も思った以上に厄介な娘を拾ったみたいね。お礼は真底困り果てた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ