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 屋敷を出てしばらくすると、鉄之助がお由美の元に飛んできた。


「だ、大丈夫か? 怪我は無かったか?」


「ええ、大丈夫よ。狭い所をくぐったので着物はこのありさまだけど。それより、この方に私達を屋敷から連れ出していただいたの」

 お由美はお富士の方に振り返る。


「いえ、用事のついでですから。お気になさらずに。では」


 あまり詮索されたくないお富士は手短な言葉でその場を去っていく。ところがそこにお美羽がお由美にウインクしながらお富士のあとをついて行ってしまう。


「あ……」


 お由美が声をかける間もなく、

「それで肝心の中の様子はどうだったんだ? そんな格好で本当に怪我は無いのか? 犬の鳴き声が聞こえたが何かあったのか?」

 鉄之助の矢継ぎ早な質問に答えられずにいる。


「とにかくここを離れて、落ち着いて話を聞こう」

 そう言って鉄之助はお由美とこてつを家へと引っ張って行ってしまった。



 一方、お美羽に後をつけられてしまったお富士は


「なぜ、私に着いてくるの? あなたはあのご婦人と知り合いじゃなかったの?」

 と聞いていた。


「ぜーんぜん。あのおばさんは、あの場で偶然会っただけ。それより、私、江戸って初めてなんだ。ね、浅草ってどっちの方にあるの? 一回行ってみたいんだ。教えてよ」


「あきれた。誰か連れはいないの?」


「その連れから逃げてるんだよね。せっかく国許から江戸まで出て来たのに、屋敷の中に閉じこもりっぱなしなんだもん。せいぜい江戸を満喫しておかなくっちゃ損じゃない? だからどっか案内してよ」


「ずうずうしい娘ね。それにその着物も借り物でしょ。全然着慣れていないもの。なのにそんなに汚してしまって……屋敷の人があなたを探しているでしょうに」


 お富士がそこまで言うと、美羽はむっとした顔になり、


「案内してくれないならいいわよ、ケチ。私、絶対帰らないから。じゃあね」

 そう言って立ち去ろうとするが、お富士がお美羽の肩をつかんで離さない。


「待ちなさい。右も左も知らない娘が一人でうろうろしたら危ないのよ。ここは国許とは違うの。あの屋敷の近くから来たんでしょう? 送ってあげるからおとなしく帰りなさい」


「あ、そう言う事言うんだ。どうせおばさんだって、あの場に長居したくない、何かまずい事があるんでしょ? さっき、ピンと来たんだ。ここで私が大声出してもいい訳?」


 世間知らずに見える割には妙に悪知恵が働く娘だ。お富士は降参した。


「わかったわよ。でもその姿じゃ目立ってしょうがない。私の屋敷に連れ帰る訳にもいかないし……。ついてらっしゃい、何とかするから」


 やむを得ず、お富士は美羽を連れて歩きだした。お富士が観念したらしいので、お美羽もおとなしく付いてくる。


「おばさん、なんて名前?」


「お富士よ。あなたは?」


「お美羽。訳わかんないうちに美羽姫、って呼ばれちゃってるけどね」

 そう、お美羽は快活に笑った。



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