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今回はいつも以上にお遊びバージョンです。時代考証って何?の世界です。コントの延長気分(つーか、ほとんどコントか)で軽く読み流してもらえれば大変助かります。それでも付き合って下さる方がいたら、ありがとうね~
たぶん(?)江戸時代。華のお江戸は年の瀬を迎え、あわただしさを増していた。
しかし、いつの世にも貧富の差はそれなりにある。
今年の師走も例年どおりに金貸しや、ツケの支払いに追われる者がいる一方で、取りたてる側も、相手に逃げられまいとあれこれ知恵を絞ったり、何とか正月の餅代にありつこうと少しでも仕事を増やしたりと、しがない町民たちはあわただしく過ごす年末特有の雰囲気の中にいた。
この時期忙しいのは何も町民ばかりではないようで……。
「今日も遅くなりそうですか?」
お由美はいつものように夫に尋ねた。
「師走と言うぐらいだからな。この時期は人も金も物も良く動く。私達同心がのんびりできる余裕はない。無事に正月を迎えるまでは忙しくて当然だ」
妻のお由美に着替えを手伝わせながら、同心、鉄之助は気を引き締めて口を真一文字に結んだ。
「今年は特に忙しくしてらっしゃるみたい。あれだけ世間を騒がす押し込み強盗が続けば、お忙しいのも当然でしょうけど」
木枯らしの吹く季節になってからと言うもの、大店狙いの押し込み強盗が続き、世間を震撼させていた。
「ただの強盗ではない。金回りの良い商人の屋敷を狙って、屋敷中皆殺しにして回っている嫌な連中だ。小僧の子供や犬まで殺されていた。情け容赦のない奴らだ」
「まあ、怖い。噂の女泥棒とは大違いね。昨夜も長屋の戸口に小判が置かれていたそうね。長屋の人達が頭を地面にこすりつけて感謝していたとか」
「同心の妻がそんな事を言ってどうする。悪党はどこでどんな奴等と繋がっているか分からないものだ。外でうかつな事を言ったりするんじゃないぞ」
鉄之助は静かな口調で、しかし、しっかりと妻をたしなめた。
「申し訳ありません。押し込み強盗のお話があんまりひどかったものですから。勿論戸締りはうちも十分に注意しますわ。おタエさんにも良く言って聞かせていますし」
「戸締りも勿論だが……。こてつはどうしている?」
鉄之助は愛犬について尋ねた。
「お庭で元気に遊んでいますよ。さっきおタエさんに朝ごはんを貰いましたから、腹ごなしでしょう」
「こてつをあまり庭から出さないように気をつけた方がいい」
鉄之助が暗い声で言った。
「どうかなさったんですか?」
「最近、人さらいならぬ犬さらいが巷で話題になっているらしい。何か悪い事が起きる前触れかと奉行所に訴えもあるらしいが、まさか犬の事で動く訳にもいかない。しかし気味が悪い。用心しておいた方がいいだろう」
「嫌だわ。物騒なお話ばかり。判りました。こてつから目を放さないようにしますわ」
「ああ、おかげで忙しくなる一方だ。……では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ。つつがなくお勤めが済みますよう」
そうお由美に見送られて鉄之助が戸口を出ると、愛犬のこてつが元気よく駆け寄ってきた。後ろから使用人のおタエが追いかけて頭を下げている。
「行ってくるよ、こてつ。お由美を頼んだぞ」
そう言って鉄之助はこてつの頭をなでてやった。